真社会性昆虫であるシロアリのコロニーには、防衛に特化した兵隊カーストが存在する。派生的な種の兵隊は「額腺」という外分泌器官から化学物質を放出して攻撃する。中でも最も派生的なテングシロアリ類の兵隊は頭部前方からジテルペンを噴射して攻撃する。そのジテルペンはセンブレンA由来の多環式構造をしており、このような化合物を合成できる動物は他に知られていない。そこで、その合成経路を特定するために、テングシロアリ類であるタカサゴシロアリの各種カーストを用いて、次世代シークエンサー(Illumina HiSeq2000)を用いてRNA-Seqを行うことにより、各カーストで発現する遺伝子を決定した。 大量の断片配列をアセンブルし、得られたコンティグの中からジテルペン合成経路の酵素の遺伝子を探索したところ、ジテルペンの前駆物質であるゲラニルゲラニル二リン酸(GGPP)を合成するまでの全ての酵素の遺伝子が見つかった。中でもGGPP合成酵素は、他の動物ではシングルコピーであるのに対して、タカサゴシロアリでは多コピー存在していることが明らかになった。またカースト間での比較発現解析を行ったところ、一つのGGPP合成酵素遺伝子は全てのカーストで発現していたが、それ以外のGGPP合成酵素遺伝子は額腺特異的な発現を示すことが明らかになった。 これらの結果から、一般のイソプレノイド合成に用いられていた遺伝子が重複し、そのコピー遺伝子が機能改変することで、防衛物質の合成経路として進化した可能性が考えられた。この結果を現在研究論文として発表準備中である。 また、今回のデータにはGGPP以降の遺伝子も含まれていることが予想され、今後の詳細な解析により、動物では知られていないジテルペン合成経路の全容解明が期待される。
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