本研究では、モンゼンイスアブラムシの兵隊幼虫が示すゴール修復という社会行動に着目し、その成立基盤および進化について、分子・細胞・発生の多面的アプローチからの理解を目指すものである。今年度は、昨年度に引き続き、ゴール修復に重要な役割を果たす兵隊の巨大顆粒細胞における網羅的な遺伝子発現解析(RNAseq解析)を推進するとともに、ゴール修復のための兵隊分泌液中の主要タンパク質成分に関して、未解析の因子についての解析をおこなった。 RNAseq解析については、昨年度の解析を予備実験と位置づけ、今年度はサンプル数を増やすとともに、全サンプルの遺伝的背景を統一するため、単一のクローン集団を出発材料とした解析をおこなった。これにより、予備実験より高精度かつ大規模な結果を得ることができた。その結果、兵隊の巨大顆粒細胞においては、体液のメラニン化および生体防御系に関わる遺伝子群の発現が亢進していることが明らかになり、予備実験の結果を再現するものとなった。これらの遺伝子については、定量PCRにより、確かに発現が亢進していることを確認した。また、巨大顆粒細胞においては脂質や糖の代謝に関わる遺伝子が発現亢進しているという結果が、今回の解析においても示された。この点について、兵隊の巨大顆粒細胞において確かに脂質や糖が局在していることを、オイルレッドO染色およびPAS染色により確認した。 タンパク質レベルでの解析においては、兵隊分泌液中の主要タンパク質成分のうち、これまで未解析であった高分子量タンパク質についての同定をおこなった。SDS-PAGEゲルから切り出したバンドから内部アミノ酸配列を決定し、RNAseq解析で得られた遺伝子配列に対して相同性検索をおこなったところ、脂肪酸合成酵素がヒットした。今後、特異的ペプチド抗体を用いたイムノブロットにより、確認実験をおこなう予定である。
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