研究課題
本研究は、野生ゴリラの糞から抽出したDNAを分析することで、おもに単雄集団を形成するゴリラの地域集団のオスの遺伝構造を解明することを目的としている。本年度は、昨年度に予備的解析を行なったカフジビエガ国立公園のヒガシローランドゴリラについて、詳細な解析を行なった。オスと判定された8集団50試料について、Y染色体上の可変性の高いマイクロサテライト領域の型判定をした。全部で7つのハプロタイプがあり、そのうち4つのタイプが複数集団で見つかった。複数のオスの型判定ができた集団は6集団であったが、そのうち5集団で集団内に多様性があった。また、試料収集を行なった2回の間で、収集された集団が異なる個体が2個体いた。いずれの個体も隣接集団への移籍であり、糞サイズから未成熟オスであると推定された。調査地域ではメスが未成熟の子供を伴って集団を移籍することが報告されており、集団内にY染色体の多様性が見られたのは、このような移籍が頻繁に起こっていることが原因であると考えられた。今年度に論文化したムカラバのニシローランドゴリラではY染色体のタイプに集団内の多様性はなかったため、未成熟オスの移籍はカフジほど一般的でないのかもしれない。一方、複数集団を含めたY染色体の多様性は両地域とも高く、ムカラバで示唆されたようにオスの遠い集団への移籍がカフジでも起こっていたのかもしれない。今後更なる調査が必要ではあるが、両地域とも隣接集団のオトナオスのY染色体のタイプは多様であり、ゴリラは父系コミュニティを形成していない可能性が高いと考えられる。一方、カフジで父系と考えられているチンパンジーの解析も行なった結果、予想通りY染色体の多様性は低かった。今回の研究から地域コミュニティレベルでのオスの遺伝構造はチンパンジーとゴリラでは異なると考えられ、これは初期人類のコミュニティを考える上で重要な成果である。
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