研究課題/領域番号 |
23770283
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松井 淳 京都大学, 霊長類研究所, 研究員 (70455476)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 霊長類 / 化学感覚受容体 / 嗅覚 / 味覚 / フェロモン / 原猿類 / ゲノム |
研究概要 |
原猿類は霊長目全体の多様性や起源を考えるうえで非常に重要な一群であり、ヒトの進化を偏りなく考えるためにも、霊長目の起源という視点は重要である。匂い・フェロモン・味の化学感覚受容体は生物と環境をつなぐタンパク質であるが、今年度は、原猿類や霊長目の近縁目を中心に新たなデータを加えて霊長目の感覚受容体遺伝子を網羅的に比較解析し、その進化の道筋を明らかにすることを目的とした。まず、データベース上にある質の高いゲノムデータを用いて、霊長目5種とその他の哺乳類の嗅覚受容体遺伝子の相同遺伝子を同定し、嗅覚受容体遺伝子のレパートリーを詳細に比較した。この解析の結果、霊長目の嗅覚受容体遺伝子のレパートリーは他の哺乳類に比べて非常に少なく遺伝子の重複も少ないことから、霊長目は大きく嗅覚機能を失っていることが示唆された。また、その精度が低いため、既存のゲノムデータでは詳細な比較が困難な原猿類等のゲノムデータについては、自ら次世代シークエンサーを用いて遺伝子をコードする全領域に限った大規模塩基配列決定を行った。この結果、真世界ザルにおいて唯一の夜行性であるヨザル、曲鼻猿類で昼行性のワオキツネザルと夜行性のスローロリス、霊長目に近縁なヒヨケザル、ツパイの新たな全遺伝子領域の塩基配列データを得た。現在、これらのデータをヒトやチンパンジーをはじめ、既に報告されているゲノムデータとあわせて解析を行っている。多様な生態を持ち、霊長目の起源からヒトに至る様々な年代に分岐した種を網羅的にゲノム比較し、霊長目における感覚受容体レパートリーの違いを解明する。霊長目内部におけるヒトの嗅覚・味覚の特殊性と普遍性、昼行性・夜行性における視覚と嗅覚・フェロモン感覚のトレードオフなど、霊長目における化学感覚受容体の進化的研究を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、様々な実験の基礎となるゲノムデータを用いた霊長類の感覚受容体遺伝子の比較解析を目標とした。これまでに、既存の高精度ゲノムデータを用いた霊長類-他の哺乳類の嗅覚・味覚受容体遺伝子の比較解析を終え、相同遺伝子による受容体遺伝子のレパートリー比較を行うことができた。さらに曲鼻猿類を中心に、全遺伝子領域に限った新たな大規模塩基配列データを決定し、ヒトを含む既存のゲノムデータとあわせて解析を進めている。データベース上にある原猿類などの精度の低いゲノムデータに自らの大規模塩基配列データを追加することで、詳細なゲノム比較を行うことが可能な新たな段階に到達することができた。計画どおり進行している。
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今後の研究の推進方策 |
ゲノム比較から浮かび上がった様々な霊長目に特徴的・普遍的な化学感覚受容体遺伝子について、実際の受容体としての機能解析を試みる。とくに嗅覚受容体については哺乳類で数百から1000を超える多数の機能遺伝子があるため、これまで実験的な受容体の機能解析では、ヒトやマウスの個別の受容体が研究の中心であり、哺乳類・霊長目という枠組みで嗅覚受容体の研究を行うことが難しかった。今年度に行った嗅覚受容体遺伝子の網羅的かつ詳細なゲノム比較の成果として特徴的な嗅覚受容体遺伝子が明らかになりつつあり、化学感覚受容体のなかでも嗅覚研究において、これらのデータが最も活かされると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
新たに霊長目ゲノムデータを実験によって補う必要が出てきた場合には、その費用とする。DNAやRNAを扱うための基本的な機器や試薬類に加えて、受容体タンパク質発現やカルシウムイオンイメージングの実験試薬を中心に購入する。また海外の研究者との共同研究、および論文・学会発表のための費用とする。
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