研究課題/領域番号 |
23770284
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研究機関 | 聖マリアンナ医科大学 |
研究代表者 |
長岡 朋人 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 講師 (20360216)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 生物考古学 / 未成年骨 / 古人口学 / ライフヒストリー / 人類学 / 考古学 / 形態学 |
研究概要 |
本研究は、生物考古学の新手法に基づき、大阪府堺市に位置する堺環濠都市遺跡喜運寺墓地から出土した江戸時代人骨を調査した。具体的には、1.古人骨の個体数推定に,生態学におけるPetersen/Lincolnの標識再捕法の応用を試み,最尤推定に基づく遺跡全体の個体数を算出した。2.未成年人骨の部位別の保存率を求め,個体数算出の基礎データとした。3.骨成長や歯の形成・萌出を手がかりに,未成年人骨の死亡年齢推定法の検証と新手法の開発を行った。その結果、全身の部位でもっとも残存する部位は側頭骨であり、右107 個、左107 個、最小個体数は107 体であった。左右各107 個のうち、対で出土しているのは87 対であり、この値から最尤個体数を算出すると126~136体であった。次に、出土人骨の大部分は未成年であり、95%以上が6 歳以下、その中でも出生前後の個体が占める割合が高かった。これは出生にともなう子どもの高い死亡率を裏付ける結果であった。この結果は、既往の堺市内の近世墓地発掘調査事例も含めて、他の江戸時代の遺跡には認められないものであった。例えば、17 世紀後半の東京都の一橋高校地点遺跡から出土した人骨209 体のうち、未成年は118 体(56.5%)、5 歳以下の個体は77 体(36.8%)であった。19 世紀の山梨県塩川遺跡は、出土人骨124 体のうち未成年は28 体(22.6%)、幼児以下は6 体(9.6%)であった。喜運寺墓地から出土した人骨の死亡年齢構成は、未成年、特に胎児や乳児の割合が高く、他の遺跡との違いは顕著であった。 以上、平成23年度の成果として、子どもの骨資料から過去の人類集団のライフヒストリーを復元し、これまでの人類学や考古学で焦点が当たらなかった子どもの死亡パターンについて新知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
堺環濠都市から出土した江戸時代人骨の研究を一段落させ、論文として成果をまとめることができた。2012年5月には日本考古学協会においてその成果を発表する予定である。また、本研究に付随し、最尤個体数や年齢推定における新手法を未成年人骨の研究に応用することができた。この手法により、次年度以降の研究を飛躍的に発展させることができると思われた。
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今後の研究の推進方策 |
東海市長光寺から出土した未成年人骨の整理を行い、古人口学的研究をすすめたい。また、胎児人骨の年齢推定法に関わる論文を執筆する。研究手法と資料の両面から未成年人骨の生物考古学の発展に新しいアプローチを試みたい。本年度の助成金を次年度に繰り越したのは、堺環濠都市遺跡出土人骨の研究が早めに目処がついたためである。その分、次年度に論文執筆などの成果発表を行い、同時に東海市出土人骨の資料整理を通して研究の発展を目指したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は標本資料の調査が基礎であるため、資料調査を行う。また、研究成果の発表として、学会発表や論文投稿を行うため、論文の英文校正費用や投稿料が必要である。さらに、データの解析に必要な統計関係のソフトウエアも購入する予定である。
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