古人骨は古代に生きた人々の体そのものであり,容貌,身長,性別,死亡年齢,出自,由来,生活痕とともに,時には骨に残る病気など,古代人の生老病死の様子を物語る。鎌倉市に所在する遺跡からは,これまでに数千を超える中世人骨が発掘された。特に,由比ヶ浜海岸に面し,旧市街のほぼ中央を南北に流れる滑川から西の由比ヶ浜地域は,中世には前浜といわれ,古くから人骨が出土することで知られた地域である。本研究では,聖マリアンナ医科大学に所蔵の中世人骨を資料にし,死亡年齢構成,骨病変,形態の分析を行った。結果,中世鎌倉人は日本列島の人類集団の中でもっとも短命傾向が強く,特殊所見として刀創を認めた。また,頭蓋形態は長頭で低身長も中世人の特徴である。本研究の所見は,近隣の中世遺跡から出土した人骨の所見と共通しており,中世鎌倉の都市化による生活状況の悪化を原因と想定して矛盾はない。
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