研究課題/領域番号 |
23770287
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
野崎 一徳 大阪大学, 基礎工学研究科, 特任講師(常勤) (40379110)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 人類学 / 発音 / 進化 / 流体音響 / 乱流 / 摩擦音 / 口腔 / シミュレーション |
研究概要 |
本研究の目的は、無声歯茎摩擦音/s/を含む単語等の形態素を発音する際にみられる、舌尖端が機敏に動き上顎前方部との間に狭めを形成する調音機構が、呼気流量と関わり合うことで、どのよう音源パワーを制御されているかについて明らかにすることである。音声形態素中の無声歯茎摩擦音の音源発生の主要因は、発音時の呼気流量と舌尖端の動きの速度であるという立場から、無声歯茎摩擦音を含む母音-子音-母音(VCV)という配列の形態素発音時に観察される、舌尖端を口腔前庭部に瞬時に接触させる機敏な動作が、音源発生に及ぼす影響について調べるため、舌尖端の動きの速度と、発音時の呼気流量、そして音源の特性との間にどのような関係を調べるための基盤的研究を実施した。特に、呼気流量が変化することによる音源成分生成量の違いについて調べた結果、流れが乱流である場合には、微量の呼気流量変化によって音源パワーのコントロールが可能であることを、数値流体音響計算等の計算科学的なアプローチに加え、音響実験により確かめた。次に、医療用コーンビームCTボリュームデータから得られた口腔内実形状を基に、舌を固定した状態で、呼気流量を変化させ、発生する音の変化について実験により計測し、さらに、同一条件での流体音響連成シミュレーションを行った。シュミレーションの結果から、物体表面における圧力変動からではなく、流れ場中の渦音源成分から流摩擦音/s/の広帯域高周波数における白色ノイズ様のスペクトルが出力することが分かった。核磁気共鳴画像装置を用いた時系列3次元画像データから、摩擦音/s/を含む音節では、舌前方部の動きが他の領域と比較して大きく速いことが観察された。本年度の成果により、舌の機敏な動きを加えた場合に、どのような変化が流れと音に及ぼされるかについて調べるための、基盤が整備された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目標は、舌の機敏な動作が摩擦音/s/の発生に及ぼす影響をあきらかにすることであるが、その摩擦音/s/を発生させるために必要な条件として挙げられるのは、上下切歯間関係とその上流での狭窄の空間的特徴である。そこで、まず、上下顎中切歯間関係について調べた。上下顎中切歯間関係の変化は、流れ場に影響を及ぼし、その結果として音源成分生成量に影響することが分かった。特に、摩擦音/s/を発生するような乱流渦の加速度的な変化を生み出すには、中切歯の前後間距離として約0.5mm程度に保つ必要性があることが、流体実験と数値流体シミュレーションの結果から分かった。次に、狭窄部の口径が発生する音源成分に及ぼす影響についても調べた。その結果、呼気流量を固定した場合には、狭窄出口付近の速度ではなく、エネルギが強く音源成分量に関係することが推察された。次に、医療用コーンビームCTから得られた口腔内実形状を用いて、呼気流量を変化させ、発生する音の変化について計測し、さらに、同一条件での流体音響連成シミュレーションを行った。その結果、物体表面における圧力変動からではなく、流れ場中の渦音源成分から流摩擦音/s/の広帯域のスペクトルが出力することが分かった。実験計画では、Perlorsonら(1984)が用いた軟性材料のチューブを丸めたものにより、狭窄部直径を制御する予定であったが、実際にPerlorson博士の研究室で当該実験設備を用いた実験を行おうとしたところ、本研究で求める機敏な動作を実現するには最適ではないことと判断した。そこで、より優れた狭窄部制御の方法として、舌動作のメカトロニクス設計を行い、ロボット制御を行うこととしたため、本年度は舌ロボットの制作は完了しておらず、予算もその分残存している。
|
今後の研究の推進方策 |
現在までの達成度に記載したように、狭窄部制御方法を変更したため、メカトロニクス部分の調査、及び最小構成での動作確認に時間を要したため、実験システムの構築完成には至っていない。そのため、本年度はメカトロニクスを応用し、舌制御方法を確立した上で、実験システムを構築する。昨年度使用予定であった研究費は、当該システム構築に必要不可欠であり、前年度構築した最小構成システムを拡張するために必要な機器購入に充てる予定である。舌運動を再現するシステムを完成させた後、流体音響実験を実施し、あるパラメータにより制御された舌の動作が、流れと音に及ぼす影響について調べる。そのために、まず、すでに呼気流量を変化させることによる音源成分、音響への影響を調査した単純モデルを用いて、狭窄部分が変化による、既存データとの違いについてしらべる。特に、狭窄領域の変化割合に着目し、乱流発生との関係性についても詳細に調べる。数値乱流シミュレーションを単純モデルについて行い、さらに得られた空間音源成分から遠方場での音場を数値音響計算により求める。特に、摩擦音において高周波数領域における計算精度が求められるため、流れと音の計算のカップリング手法について精査し、実施する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
今後の研究の推進方策に記載したように、Perlorsonら(1984)が用いた軟性材料のチューブを丸めたものから、狭窄部制御方法を変更したため、メカトロニクス部分の調査、及び最小構成での動作確認に時間を要した。そのため、初年度では実験システムの構築完成には至っていない。本年度はメカトロニクスを応用し、舌制御方法を確立した上で、実験システムを構築、完成させる。昨年度使用予定であった研究費は、当該システム構築に充てる。音響、流れ場計測について優れた業績を残しているフランス・グルノーブル工科大学Anemie van Hirtum博士と、引き続き連携することで、精度の高い実験を実施する。そのため、博士を数週間招聘し、共同して実験、論文作成を行う。核磁気共鳴装置から得た時系列3次元頭頸部断層画像から、舌ロボットに与えるパラメタを抽出し、口腔内で調音される摩擦音/s/が、in vitroでもin silicoでも発生することが出来るシステムを開発する。
|