研究課題/領域番号 |
23770290
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
小崎 智照 九州大学, 芸術工学研究科(研究院), 助教 (80380715)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 人工照明 / 生体リズム / メラトニン |
研究概要 |
人間の生体リズムは基本的に24時間より長く、日中に日十分な光曝露が行われない場合には、生体リズム位相が後退し、生活リズムと生体リズムが乖離する。生活リズムと生体リズムの乖離は睡眠不足等の睡眠問題や、それに関係するうつ病の発症などの健康リスクを高める危険性がある。実際、我々のフィールド研究でも省エネに伴うオフィス空間の低照度化が、オフィスワーカーの睡眠感を低下させることを明らかにしている。また、生体リズム位相障害などの疾患に対しては、10000lxといった強強度の光療法がおこなわれているが、このような強強度の光曝露は視細胞を傷つけるなどの危険性があり、必要最小限の光強度を明らかにする必要がある。そこで、本課題では生体リズム位相の指標であるメラトニン分泌開始時間(DLMO)より、生体リズム位相の前進ならびに維持するのに必要な光特性の解明に取り組んでいる。本年度は、固定した光曝露時間(午前中の3時間"9:00~12:00")における異なる強度の人工照明光(1500、3000、6000lx)を被験者へ曝露し、異なる光強度がDLMOに与える影響ついて検討した。実験は2日間で行い、初日の午前中をDim(<30lx)条件を曝露し、2日目の午前中に各光強度条件を曝露した。本研究の結果、3000lxの光強度において、DLMOが有意に前進することが確認され、1500lxであればDLMOが有意に後退することはなかった。これより、午前中3時間といった短時間の光曝露でも、3000lx程度の光強度では生体リズム位相を前進させ、1500lxでは生体リズム位相を維持できることが示唆された。この結果より、光療法に必要な光強度の指針や人工照明による光環境デザインに対して有用なデータも得ることができたと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では、1日午前中3時間の短時間でも3000lxといった光強度であれば生体リズム位相を前進させ、1500lxでは生体リズムを維持できることを明らかにした。この成果は当初の年度計画を達成するものであるが、本結果が6名の被験者から得られたデータであり、サンプリングの信頼性が必ずしも高いとは言えない。この大きな原因として、本研究では唾液中メラトニン濃度によるDLMOから生体リズム位相を評価しているが、唾液サンプル採取時間中(午後8時から午前1時まで)にDLMOを確認できない被験者が数名出現し、データの欠損となったことが挙げられる。本研究では唾液メラトニン濃度の分析を最も精度の高いRIA(放射線免疫分析)法を用いて行っているが、その試薬キットの使用期限(放射線の半減期)が短く、ある程度まとまった数のサンプルを一度に行う必要がある。したがって、唾液中メラトニン濃度は実験終了後にまとめて行う必要があり、被験者のDLMOを事前に把握することは非常に困難である。よって、本研究成果のデータ信頼性を高めることと同時に、以下の今後の推進方策にも示した新たなデータ解析を行うために、更なる被験者でのサンプリング数の増加が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果より、3000lxといった光強度であれば1日午前中3時間の短時間でも生体リズム位相を前進させ、1500lxでは生体リズムを維持できる可能性を示した。しかし、光による生体リズムへの作用は、光強度だけでなく、その曝露時間や波長構成、さらには"どのタイミングで光曝露を行うのか(つまり、位相反応曲線)"等の要素も関係する。特に光に対する位相反応は、光曝露を行うタイミングによっては、同じ光による生体リズム位相への作用強度が異なることを意味する。つまり、最も効果的なタイミングで光曝露を行った場合には、より低い強度でも生体リズム位相を前進または維持できる可能性がある。本年度の成果は主に午後11時から午前1時までの範囲でDLMOを示した6名の被験者による結果である。よって、さらに被験者数を増やし、より幅の広いDLMOを示す被験者への反応を測定することで、"異なるDLMO"をX軸とし"光曝露によるDLMOの変化"をY軸とするプロットから、"光曝露のタイミング"と"生体リズム位相に作用する光強度"の関係を明らかにすることが可能である。そこで、今後の方針として、光療法や人工照明デザインへの応用に向けてより実現的な成果を得るために、同様の実験をより多くの被験者に対して行い、そのデータから"各光曝露タイミングで必要な生体リズム位相へ作用する光強度"を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度は研究代表者が職場異動に伴い業務多忙となったため、本研究に関する情報収集や成果発表の時間が十分にとれず、予定していた旅費の一部が繰り越しとなった。次年度は今後の推進方策にも述べたように"各光曝露タイミングで必要な生体リズム位相へ作用する光強度"を明らかにするため、繰り越した予算も使用し、本年度と同様の実験を継続してより多くのサンプル(被験者)からのデータ取得を行う。そのため研究費は主に実験被験者への謝金と唾液中メラトニン濃度分析のためのRIA試薬キットとそれに必要な消耗品(物品費)である。また、本研究に関する情報収集や成果発表のための旅費や参加費(その他)にも使用予定である。各項目の使用予定金額は以下のとおりである。物品費(60万円)、謝金(100万円)、旅費(25万円)、その他(5万円)。
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