人間の生体リズムは基本的に24時間より長く、日中に日十分な光曝露が行われない場合には、生体リズム位相が後退し、生活リズムと生体リズムが乖離する。生活リズムと生体リズムの乖離は睡眠不足等の睡眠問題や、それに関係するうつ病の発症などの健康リスクを高める危険性がある。また、生体リズム位相障害などの疾患に対しては、10000lxといった強強度の光療法がおこなわれているが、このような強強度の光曝露は視細胞を傷つけるなどの危険性があり、必要最小限の光強度を明らかにする必要がある。そこで、本課題では生体リズム位相の指標であるメラトニン分泌開始時間(DLMO)より、生体リズム位相の前進ならびに維持するのに必要な光特性の解明に取り組んだ。1年目(H23年度)は、固定した光曝露時間(午前中の3時間“9:00~12:00”)における異なる強度の人工照明光(1500、3000、6000lx)を被験者へ曝露し、異なる光強度がDLMOに与える影響ついて検討した。これより、午前中3時間といった短時間の光曝露でも、3000lx程度の光強度では生体リズム位相を前進させ、1500lxでは生体リズム位相を維持できることが示唆された。しかし、データ欠損もあり十分なサンプル数を確保できなかったために、2年目にはサンプル数を増やすために追加実験を行った。この結果、実験1日目の午後11時前にDLMOが認められた被験者群は、すべての光条件で実験2日目の有意なDLMOの前進が認められなかったものの、実験1日目の午後11時以降にDLMOが認められた被験者群では全ての光条件で実験2日目のDLMOが有意に前進した。これより、午前中3時間の光曝露による生体リズム位相への作用は、被験者の生体リズムが夜型の個人に対してより効果的であることが明らかとなった。
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