研究課題
本研究では、単為結果性や果実肥大性を示す4種類のトマト変異体を用いて、これら変異が蓄積した多重変異体を作出して、(1)トマトの単為結果性と果実肥大性の両性質がどこまで強化できるかを明らかにしたい。(2)また、変異体の中で両性質を同時に示すユニークな変異体(c)において、その原因遺伝子を明らかにすることを目的としている。平成23年度では以下の研究を実施した。(1)4種類の変異体同士(a,b,c,d)を交配して、それぞれの二重変異体を作出し、それらの表現型、単為結果性、果実肥大性を評価した。その結果、ab、あるいはac二重変異体では果実肥大性が著しく上昇し(1.4~1.6倍)、形成された果実は種無しであったことから、単為結果性も付与されていたことが明らかとなった。一方、bd二重変異体は極矮性を示し、果実を形成しなかった。またcd、bd二重変異体の作出を何度も試みたが、二重変異体を得ることができなかった。以上のことから、変異体dを利用して多重変異体を作出することは、何らかの理由で抑制されていると考えられた。(2)変異体cの原因遺伝子を同定するために、変異体とトマト栽培種Ailsa Craigとの間でF2分離集団を作出し、遺伝分析を行なった。また、変異体の全ゲノムリシークエンスを実施した。この結果、果実肥大に関わる既存の遺伝子内に変異は存在していなかったことが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
当該研究の実施状況は、概ね順調である。まず、二重変異体の作出においては、予定通り全組み合わせの交配を実施した。bd二変異体の果実が形成されず、またcd、bd二重変異体が得られなかったが、著しい果実肥大性を有するab、acの二重変異体を得ることができた。これらの果実1個当たりの重量は、両親の変異体と比較して1.4~1.6倍も上昇しており、本研究の計画の理論が実証された。一方、ab、ac二重変異体が形成した果実は全て種無しであった。変異体両親a, b, cは種をつけるため、果実肥大性の変異を蓄積させることで、肥大性のみならず単為結果性も強化されていたと考えられる。このことは今まで明らかにされておらず、本研究の成果によって得られた新しい知見である。さらに、これらの変異体が実際の育種にも利用できる可能性も考えられた。 当初の計画通り、変異体cのF2雑種集団を作出して遺伝解析を行なった。また変異体のゲノムを解読した結果、トマトの果実肥大性に関わる既存の遺伝子内に変異は存在していないことが明らかとなった。つまり変異体cの変異原因遺伝子は新規遺伝子をコードしていると考えられる。この遺伝子を同定することで果実肥大性、単為結果性の有機的な相互作用における、新たな知見が得られると期待される。
果実を形成しなかったbd二重変異体においては解析の対象から外す。前年度に作出できなかった二重変異体cd、bdについて、交配時に花粉親と種子親を変えることで再度作出を試みる。abcの三重変異体の作出を試みる。ただし、ab、ac二重変異体はともに強い不稔性があることから、相互交配が難しい可能性がある。そのため、ヘテロで変異を持った両親同士を交配させて、後代から三重変異体を得る。得られる三重変異体abc、二重変異体ab、ac、単変異体a、b、c、および野生株間で果実肥大性と単為結果性を評価して、この両性質の有機的な相互作用を調査する。 一方、変異体cにおいてはF2雑種集団を用いたより精密なラフマッピングを行なう必要がある。国際トマトコンソーシアムから販売されるSNPタイピングアレイを実施して、原因遺伝子が座上する領域をさらに狭め、レファレンスゲノムと既に得られている変異体cの塩基配列情報とを比較して、原因変異遺伝子を同定する。同定後、直ちに変異体の相補性検定を行なう。以上の研究により、遺伝子変異蓄積によるトマト果実肥大特性向上の可能性を明らかにしたい。本研究の成果により、この両性質を同時に制御する分子メカニズムの新たな知見が得られると期待している。
近年の著しいシークエンス技術の進歩により、当初予定よりも安価でシークエンスを実施できたために研究費の一部に繰越しが発生した。繰越金においては、取得した塩基配列の高品質化および原因遺伝子座上領域の絞り込みのためにSNPタイピングアレイを行なう。このためのSolCAPチップ購入費と委託分析費用を24年度で計上する。また、植物の栽培や相補性検定実験に必要な実験器具類および消耗品類を購入する。その他、学会発表および論文発表を通して成果を発表するため、その経費を計上する。
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