小麦粉中に約10%含まれる種子貯蔵タンパク質は、多種類の組み合わせによって生地強度が大きく変わるため、加工適性決定の主要因である。私たちはこれまでに、コムギ近縁野生種Thinopyrum elongatumに由来する種子貯蔵タンパク質をもつパンコムギ系統では、生地強度が飛躍的に強くなることを報告した。 そこで本研究課題において前年度までに、2次元電気泳動(2DE)法でこの種子貯蔵タンパク質タンパク質を分離した結果、高分子量グルテニンサブユニット(HMW-GS)領域に分子量で2種類、それぞれで等電点の異なる5種類(計10種類)のタンパク質を検出できた。最終年度ではこれらタンパク質のリン酸化の有無を調べた結果、いずれのタンパク質もリン酸化されていないことが明らかとなった。 次に、前年度から引き続きTh. elongatum由来HMW-GS遺伝子のクローニングを試みた。その結果、パンコムギの同じ遺伝子座では2種類しか存在しないが、25種類のTh. elongatum由来HMW-GS遺伝子が得られた。それらの推定上のアミノ酸配列を元に等電点を予想した結果、種類によって等電点に大差があった。従って2DE法でみられた等電点の違う分子種は、リン酸化の影響ではなく、それぞれ異なる遺伝子に由来すると考えられた。さらにパンコムギのHMW-GSと比較した結果、水素結合を強めるアミノ酸置換がみられ、生地強度の強化に関与していると考えられた。 これらの遺伝子について、コムギ無細胞タンパク質合成法により、人工合成した種子貯蔵タンパク質を得ることができた。また前年度から引き続き、種子貯蔵タンパク質の無い小麦粉ができる系統を育成した。以上より、人工合成タンパク質を種子貯蔵タンパク質の無い小麦粉に添加すれば、人工交配では不可能であった単一分子種が生地強度におよぼす効果を高精度に品質評価できる。
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