研究概要 |
本研究課題は、突然変異育種の効率化を図るため、実用的な手法の確立には至っていない変異の方向性制御に着目し、高発現している遺伝子が変異し易い可能性について検討することを目的とする。遺伝子の発現量と変異率との関係を調査するため、ホルモン誘導性プロモーターの制御下に、変異検出マーカーとしてトライコーム形成に必須であるGL1遺伝子を持つシロイヌナズナ形質転換体を作出した。gl1変異株を遺伝的背景として作出したこれらの形質転換体では、外部からのホルモン処理に応答して葉表面にトライコームが形成された。本研究では、トライコーム発生の有無を指標として変異セクターを検出することを想定していたが、形質転換体の系統間ならびにホルモン処理方法によってトライコームの発生頻度に差が見られたものの、変異セクターを検出できる程度に高密度に安定してトライコームが発生する系統は得られなかった。そこで、シロイヌナズナ幼苗を材料として、蔗糖の投与によって発現が誘導される色素生合成系の遺伝子を対象として、遺伝子の発現量と変異率との関係について検討した。野生型シロイヌナズナをロックウールに播種してから5日後の幼苗に、終濃度0.8%となる蔗糖溶液を投与すると、幼苗に蓄積する色素量が処理後2日目以降に顕著に上昇した。また、半定量的RT-PCRによって、色素生合成に関わるCHS, LDOX, DFR等の遺伝子の発現量が有意に上昇することを確認した。蔗糖投与後2日目の幼苗及び無処理の幼苗に炭素イオンビームを照射した。各処理区について約800個体の照射当代(M1)植物体に由来する次世代(M2)系統について色素の蓄積が殆どまたは全く認められない変異体を選抜した結果、無処理区では2系統、蔗糖処理区では4系統の変異体が得られた。試験数を増やしてさらに検証する必要があるが、この結果は、高発現する遺伝子が変異しやすい可能性を支持する。
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