研究課題/領域番号 |
23780009
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研究機関 | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
戸田 恭子 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 作物研究所畑作物研究領域, 主任研究員 (10360447)
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キーワード | ダイズ / 低温ストレス耐性 / フラボノイド |
研究概要 |
これまでの研究から、フラボノイド生合成酵素遺伝子の一つであり、大豆毛茸色を支配するフラボノイド3’水酸化酵素(F3’H)は大豆の低温ストレス耐性に関わることが強く示唆されているが、そのメカニズム等は明らかになっていない。本研究では、大豆フラボノイドが関与する低温ストレス耐性機構および低温ストレス耐性に有用な遺伝子を明らかにするため、(1)大豆形質転換体を用いたF3’Hと低温ストレス耐性との関係解明、(2)ケルセチン含量や抗酸化活性に影響を及ぼす大豆遺伝子の解析、(3)ストレス条件下で代謝・修飾されるフラボノイド類の解析、等を行う。今年度は低温ストレス耐性・組織の抗酸化活性とフラボノイド配糖体との関係を調べた。また、フラボノイドと同様、抗酸化物質であり、低温ストレス耐性との関係を指摘されるトコフェロールについても解析した。(1)については、現在2系統3個体の大豆形質転換体を育成中である。 F3’H活性を同様に有するにも関わらず低温ストレス耐性の異なる褐毛大豆品種を用い、25度、15度(低温)条件における第2本葉のフラボノイド配糖体をHPLCにより分離分析した。蓄積した各フラボノイド配糖体の分子種は、高い低温ストレス耐性を示す「キタムスメ」「ハヤヒカリ」より低温ストレス耐性の低い「十勝長葉」「十育112号」のほうが多く、後者特異的な配糖体ピークが検出された。検出された約20種類のフラボノイド配糖体のうち、2種類が品種の耐冷性指数と高い相関があり、低温誘導性を示したが、組織の抗酸化活性と高い相関を示すフラボノイド配糖体とは一致しなかった。今後、配糖体を酸で分解し、フラボノイドアグリコン量と抗酸化活性、低温ストレス耐性との関係を調べる予定である。トコフェロールについてはHPLC蛍光検出器を用いて解析し、褐毛品種と白毛品種でトコフェロールピークに差がないことを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の大きな柱は形質転換体の解析である。今年度、2系統の形質転換体が得られたことは非常に有益な結果である。褐毛品種が有する顕著な低温ストレス耐性は、低温条件下における種皮の裂皮・着色抵抗性、収量低下の軽減である。種皮の裂皮・着色抵抗性は、目視で判別出来る形質であり、T1、T2を用いて容易に解析することが可能であるため、今後の進展が期待出来る。 上記(2)のケルセチン含量や抗酸化活性に影響を及ぼす大豆遺伝子の解析については、昨年度解析済みであり、大豆褐毛品種の低温ストレス耐性の違いはフラボノイド生合成に関わる遺伝子の発現量とは関与しない事が示唆された。 (3)ストレス条件下で代謝・修飾されるフラボノイド類の解析に関しては、耐冷性指数との関与が示唆され、低温誘導性を示すフラボノイド配糖体を見出したが、フラボノイド分子種と抗酸化活性、低温ストレス耐性との関係を明確に示す結果は得られておらず、更なる解析が必要である。今後はフラボノイドアグリコンの分析を行うとともに、低温ストレス耐性と酸化ストレスや抗酸化活性との関係について解析を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
上記(1)の大豆形質転換体を用いたF3’Hと低温ストレス耐性との関係解明については、引き続き大豆形質転換体の育成を進め、T1個体の選抜、DNA解析、RT-PCR等による目的遺伝子の発現解析を行う。また、T1、もしくはT2個体を用いて形質転換体の低温ストレス耐性(低温条件下における種皮の裂皮・着色抵抗性)を評価する。また、細胞レベルでの形質を明らかにするため、開花期に低温処理した個体の未熟種子の形態をミクロトーム切片等を用いて光学顕微鏡により観察する。形質転換体で解析する前に、毛茸色に関する準同質遺伝子系統を用いて両者の形態学的な違いを検出する。 上記(3)ストレス条件下で代謝・修飾されるフラボノイド類の解析については、「十勝長葉」「十育112号」特異的配糖体や耐冷性指数との関与が示唆される配糖体について分子種の特定等を試みる。また、低温ストレス耐性の異なる褐毛大豆品種の幼植物体を用いて低温ストレス条件下での酸化ストレスを評価し、酸化ストレス度と抗酸化活性、低温ストレス耐性との関係を明らかにする。フラボノイド分析については、酸で分解したアグリコンの分析も行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
分子生物学試薬、光学顕微鏡用試薬のための物品費、主に形質転換作出および評価に関わる人件費、研究打ち合わせおよび学会発表用旅費、論文投稿に関わる費用で使用する予定である。 なお、次年度使用額590円は研究費を効率的に使用して発生した残額であり、次年度の研究費と合わせて、研究計画遂行のために使用する。
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