研究課題/領域番号 |
23780016
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
門脇 正行 島根大学, 生物資源科学部, 助教 (00379695)
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キーワード | サツマイモ / 地温 / 植被率 / 品種間差 / 変動係数 |
研究概要 |
2011年度の実験では,地温の変化に伴う収量の変動係数が小さい品種を高地温耐性のある品種として評価した.また,収量の変動係数と以前に調査した各品種の個葉葉面積との間には負の相関関係が認められた.それらの結果から,葉面積展開能力の優れた品種は早期に地表面を覆うことで地温の上昇を抑制し,安定した収量を実現しているものとの仮説を立てた. そこで,2012年度では植え付け約1か月後の植被率と地温および収量との関係性を明らかにすることを第一の目的として行った.前年度の収量の変動係数と個葉葉面積の結果から,数品種を選抜し,3種のマルチ資材を用いて圃場条件下で栽培を行った.その結果,植被率と地温との関係は明確ではなかったが,植被率と収量の変動係数との間には有意な負の相関関係がみられ,生育初期の植被率が高いほど地温が変化する条件でも安定した収量が得られることが示された. さらに,地温だけでなく気温,土壌水分と収量との関係を調査することを第2の目的として温度傾斜型チャンバー(TGC)内で栽培試験を行った.圃場試験で変動係数の小さかったベニアズマ,オキコガネ,ベニオトメを用いて実験をした結果,圃場では収量変動が小さい3品種でもTGC内では高温による塊根生産の有意な低下が見られた.TGCでの実験では地温と植被率との間には有意な負の相関関係が見られたが,植被率と収量の変動係数との間には負の相関は見られるものの有意ではなかった. 以上の結果より,上記の仮説の検証を圃場試験またはTGC内の試験で行ったが,高い植被率と地温または収量の変動係数との関係は一部では有意な負の相関関係が認められたが,全て仮説通りの結果とはならなかった.今後,さらに詳細な解析を行うためには植被率の調査頻度等を検討する必要がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度,手法の確立できなかった13C供与について,方法を再検討して実験を行った.しかし,結果として13Cの転流が検出できるほどの13C量が植物体内に同化されておらず,解析ができなかった.来年度は試薬量や方法を再度検討し,検出可能な手法を確立する. 2012年度も高温であり,十分な高温ストレスをかけることが可能であったが,TGC内では厳しい高温ストレスに曝されたため,塊根が十分に肥大せず,個体間差も大きくなり塊根増加速度の解析ができず,さらに収穫後の糖含量や皮色の分析に供試する塊根も確保できなかった.来年度は気温等も考慮しながら潅水量,植え付け時期等を修正し,収穫後の分析が可能な程度まで生育できる環境を整える. 土壌水分計の測定開始が機器の不調もあり大幅に遅れた.そのため,TGC内での実験では気温および地温の影響は検討できたものの,それに伴う土壌水分の影響は検討できなかった.また,地温測定に用いた温度記録計の不調や故障により一部では地温の計測ができない場合があった.このような計測機器の不調による欠測を防ぐ対策を早期に検討する必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
圃場条件下およびTGC内でマルチ資材による地温の変化を生じさせ,植被率と地温および収量の変動係数との関係を再検討する.圃場では生育初期より植被率を定期的に測定し,高い植被率が地温上昇を抑制し安定した塊根生産につながるという仮説を立証する.合わせてTGC内ではさらに気温と土壌水分の影響も検討する. また,TGC内での実験においては植被率を葉面積の指標として用い,個葉光合成速度を測定することで気温,地温および土壌水分が光合成生産能力(ソース能力)に及ぼす影響について解析する.さらに,生育途中で13Cを用いた炭素トレース実験を行い,同化産物の転流の確認を行うとともに,生育途中と収量調査時の塊根乾物重の差から塊根乾物増加速度を算出する.同化産物の塊根への分配率と塊根乾物増加速度からシンク能力の評価を行い,気温や地温の上昇に伴い高いソース能力あるいはシンク能力を維持できるものを高温耐性を有する品種とみなし解析を行う. 収穫後の塊根を用いて皮色および糖度の測定を行い,品質に対する高温の影響も検討したうえで,高温条件下で収量および品質が維持される品種とそのメカニズムについて考察する.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度から54,705円が次年度使用額として繰り越しになった.その理由として,2012年夏の高温に対応するため生育初期より潅水設備等の栽培資材への支出が増えたため,その他の費目への支出を控えた結果,最終的には繰り越し金額が生じた. 昨年度の結果より,地温測定に関して方法の再検討と測定地点の増加が必要であるとの結論に至った.地温測定は本研究の最も重要な部分であるため,重点的に平成24年度の繰越額と平成25年度の予算の一部を温度記録計とその関連物品の購入に充てる.その他に必要な栽培資材,試薬,肥料等を購入する.また,調査補助として謝金を支出する予定である.得られた成果は日本作物学会(鹿児島市)あるいは農業生産技術管理学会(松江市)で発表する予定である.
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