研究課題/領域番号 |
23780017
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
松村 篤 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 助教 (30463269)
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キーワード | 温暖化ガス / 亜酸化窒素 / 二酸化炭素 / 土壌微生物 / 緑肥作物 / 作物生産 |
研究概要 |
資源循環型の作物生産の方策の一つとして,作付け体系に緑肥を導入し,窒素の循環を図ることが再評価されているが,マメ科緑肥作物の窒素固定過程や分解時の亜酸化窒素(N2O)の発生については明らかにされていない.本年度は,すき込み後のN2Oの排出,窒素の動態を定量化し,土壌微生物バイオマスや群集構造の変化との相互関係を明らかにすることを目的とした. 緑肥作物のすき込みによるN2Oの排出量を調査するため,窒素含有率が異なる緑肥を実験に用いた.冬作緑肥作物としてエンバク,ヘアリーベッチを夏作緑肥としてソルガム,セスバニアを栽培した.また,緑肥作物をすき込む土壌として灰色低地土および黒ボク土を用いた.それぞれの土壌に緑肥作物をすき込み,経時的に土壌から発生するN2Oの発生量を測定した.また,土壌水分の変化や採取した土壌の化学性やリン脂質脂肪酸分析による土壌微生物バイオマスと群集構造の変化について調査した. 緑肥のC/N比はヘアリーベッチで最も低く,次いでセスバニア,エンバク,ソルガムであった.エンバクおよびヘアリーベッチをすき込んだ際のN2Oフラックスは45日間で,それぞれ灰色低地土で158, 762 mg N m-2,黒ボク土で24, 94 mg N m-2の値を示し,ヘアリーベッチをすき込むことでN2O放出が増加した.一方,ソルガムおよびセスバニアでは85日間でそれぞれ灰色低地土では67, 128 mg N m-2,黒ボク土では40, 49 mg N m-2の値を示しN2Oの排出は低く推移した.これらのことから,夏季の高い地温がN2Oの排出を増加させることが考えられる.また,黒ボク土と比較して灰色低地土ではその排出量が高かった.灰色低地土では脱窒菌が多く含まれるグラム陰性菌の脂肪酸量が高く,緑肥すき込み後その量が増加したことから,脱窒菌の増殖が関係していることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでの研究において,イネ科緑肥作物と比較してマメ科緑肥作物をすき込んだ場合では亜酸化窒素の発生量が高く,その量は土壌の性質によって影響されることが明らかとなった。特に,排水性が悪い灰色低地土では脱窒の中間産物として排出される窒素の多くが亜酸化窒素として排出されることが考えられた。また,冬作緑肥作物と夏作緑肥作物を比較した実験から,亜酸化窒素の発生は土壌水分とともに地温にも大きく影響され,西南暖地では春先から夏の終わりにかけての期間に亜酸化窒素の排出が促進されることが明らかとなった。さらに、土壌微生物のリン脂質脂肪酸解析の結果から,亜酸化窒素の発生時に増加する土壌微生物について知見を得ることができた。これらの結果から,ポット試験という人工的に構築した環境下ではあるが年間を通しての亜酸化窒素に排出パターンをある程度把握することができた。しかし、本研究は圃場レベルにおいて亜酸化窒素の排出量に加えて土壌微生物バイオマスや後作物の窒素吸収量などを調査することで作物栽培時の窒素の動態を把握することが主たる目的である。今年度はトウモロコシ栽培圃場において化成窒素肥料と有機窒素肥料を施用した場合の亜酸化窒素の発生量の比較を行ったが、緑肥作物のすき込みによって発生する亜酸化窒素を圃場レベルで調査するところまでは至っていない。以上のことから判断して、研究はやや遅れているといえ、今後は生産現場での調査を取り入れていく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、これまでの知見を踏まえて実際の圃場条件下での亜酸化窒素の発生量を定量化することを第一の目的とする。具体的には1)ヘアリーベッチ(緑肥)-コムギの作付体系を予定している和歌山県みなべ町の新規造成園地、2)クロタラリア、ソルガム(混作緑肥)-黒ダイズを予定している京都市西京区大原野において、それぞれ栽培期間中に排出される亜酸化窒素と土壌微生物バイオマス、後作物の窒素吸収量を評価する。また、マメ科作物では根粒菌による窒素固定に関係して栽培期間中にも亜酸化窒素の排出が予想されたことから、緑肥の腐熟期間中だけではなく、後作物にマメ科作物を栽培した際に排出される亜酸化窒素についても検証していく予定である。現在、本学圃場においてライムギ(緑肥)-ラッカセイの作付け体系における亜酸化窒素の排出を調査中であり、ラッカセイの窒素固定能や根粒形成を考慮して、播種から収穫までに排出される亜酸化窒素を定量化する。一方,本研究では亜酸化窒素の排出を制御する方法を開発することは目的としていなかったが、土壌への炭の施用が亜酸化窒素の排出制御に効果的であることが予備試験の結果から明らかとなったため、この点についても調査していきたいと考えている。 来年後は本研究を実施する最終年度に当たるため、生産現場での応用研究に加えて、学会での発表や論文作成に積極的に取り組んでいく。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は生産現場での調査が中心となり、亜酸化窒素の排出や土壌微生物バイオマス・群集構造の変化を明らかにするためには、経時的な分析が不可欠であることから研究費の多くは旅費として使用する。また、本研究の成果発表を行うため次年度の秋に開催される日本作物学会に参加予定である。以上のことから、次年度の直接経費600,000円の内、半分の300,000円を旅費として使用することを計画している。その他に脂肪酸分析時に使用するヘリウムガスや窒素ガスとして100,000円を計上している。消耗品費としては土壌溶液採取キットや養分分析用の試薬・器具類、脂肪酸分析用の試薬・器具類に150,000円を予定している。残りの50,000円は本研究に関する内容についての論文の投稿料および印刷費に充てる予定である。
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