研究課題/領域番号 |
23780021
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高田 大輔 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (80456178)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 果樹園芸学 / 農業気象学 / オゾン / ブドウ / 乾物生産 / 1-MCP / 光合成活性 |
研究概要 |
東京大学附属生態調和農学機構にて、ブドウ‘ピオーネ’、‘マスカットオブアレキサンドリア’、モモ‘白鳳’、イチジク‘桝井ドーフィン’、‘リサ’、‘ビオレーソリエス’各12樹をもちいて、オゾン曝露処理を行った。閉鎖系人工気象室2室を用い、うち1室にはオゾン発生機を設置(曝露室)、別の1室はチャコールフィルタを設置し、オゾン濃度を10ppb以下に調節した。ブドウへのオゾン曝露処理では‘マスカットオブアレキサンドリア’では‘ピオーネ’よりも、可視被害の発生開始日が遅く、最終的な被害程度も低く、また、個体光合成速度も高かった。イチジクでは品種間に差がなかった。収穫後に樹を解体し乾物分配を見たところ、根の乾物重がオゾン曝露により有意に低下した。 ブドウ‘ピオーネ’鉢植え樹を用いて、オゾン処理開始前日に、1-MCP処理を併用して葉の可視被害に及ぼす影響を調査した。すなわち個体をビニルバック内に搬入後、1-MCPを500、1000、2000ppbの濃度で24h気浴処理した後オゾン曝露処理を開始した。いずれの濃度の1-MCP処理でも可視被害の抑制みられなかった。一方で、2000ppbの1-MCP処理では、オゾン曝露後3日目において、蒸散速度、気孔コンダクタンスの低下が抑制されたが、それ以降の日において差はなく、曝露1か月後の個体乾物重に影響がなかった。オプトリーフ(Y-1Wタイプ)を用いて、個葉の可視被害と日照量との関係を検討したところ、同節位の葉では、積算日照量の高い葉で可視被害の程度が高かった。また、節位別に可視被害の程度を見たところ、節位の低い葉、すなわち古い葉ほど可視被害の発生日が早く、その程度も高かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鉢植え果樹を用いての高濃度オゾン条件下の果樹の樹体生育を樹体の乾物分配で見る試験は、予定通り実行できた。その結果、光合成速度や乾物分配にオゾン曝露の影響があることを明らかとしたほか、ブドウにおいては被害程度に品種間差があることを明らかとした。1-MCPを用いた、オゾン曝露条件下での被害抑制の可能性の検討に関して検討したところ、濃度2000ppbの1-MCP処理により、一時的に被害の抑制を行うことができたが、その効果はごく短期的であることを明らかとした。日射量と可視被害の関係を検討した試験は、主にブドウを用いて行ったが、直接的に到達した積算光量と可視被害の程度に相関があることを明らかとした。 また、モモでの試験結果をまとめて、2012年3月に学会発表を行うことができた。 以上の点を当初の目的と照らし合わせた結果、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、高濃度オゾン条件下での果樹の生育を樹体の乾物生産や転流・分配の面から検討するとともに、オゾン被害を抑制する方法の検討行うことである。 葉の可視被害の増加を抑制することを目的に、1-MCPなどのエチレン生合成阻害剤を用い、その効果と実用可能性の判断を光合成活性の測定とバイオマスの測定を行うことで評価する。また、葉への相対的な日照量の違いがオゾン曝露中の可視被害の発生に及ぼす影響についても測定する。 主にブドウ2品種を供試し、個体光合成、台木品種の検討などを行うことである。さらに、オプトリーフを用いての、葉への直達光量の違いが、オゾン可視被害に及ぼす影響を検討する。加えて、1-MCPを用いた、可視被害抑制の可能性の検討が可能であるかを判断し、その試験可能な濃度域と処理の回数を探るとともに、オゾン曝露にともなうエチレン生成の影響を抑えた条件下での曝露による被害の有無を検討することである。オゾン曝露濃度と期間:150ppb・5日間(1日7時間曝露)。気象調査:オゾン濃度(AOT40)、気温。解体調査:収穫後に部位別乾物重の測定、果実品質の調査。非解体調査:処理前、処理直後、収穫直後など経時的に光合成活性や葉面可視被害を調査。光量計測:オプトリーフ(Y-1Wタイプ)を曝露開始前に設置し、曝露中~可視被害発生・進行時に相対光量、1-MCP処理の有無・濃度と可視被害との関係性を評価。1-MCP濃度と処理時期:ブドウに関して、2000ppbの気浴処理を1~3回行うとともに、断続的にオゾン暴露処理を行う。解体調査:収穫後に部位別乾物重の測定、果実品質の調査。非解体調査:処理前、処理直後、収穫直後など経時的に光合成活性や葉面可視被害を調査。光合成関係:個体光合成速度。可視被害:4段階評価とパソコン上での色抽出。
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次年度の研究費の使用計画 |
大型機器の購入予定はない。物品費40万円について、オプトリーフのリーフ(測定用シール)、自動潅水装置やエバフロー等の水回り品購入費、デジタル糖度計、植物体ならびに土、鉢、肥料等の栽培用品を購入予定である。謝金38万円について、4月より12月まで、月あたり28時間の雇用人件費に充てる予定である。除草、誘引、果房管理などの植物個体の管理作業、光合成活性測定などの補助、採取データの入力、オプトリーフの設置(貼り付け)等を依頼予定である。旅費10万円について、農業気象や環境工学関係学会の学会発表を行う際に使用する予定である。その他2万円について、学会参加費等に利用する。
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