研究概要 |
キュウリ(Cucumis sativus L.)の雄花または雌花への分化は、がく、花弁、雄しべ、雌しべの各原基を形成する両性花的な発育段階の花芽を経た後、雄しべまたは雌しべ原基のいずれか一方の選択的な発育抑制によって起こるが、そのメカニズムの詳細は不明である。これを解明する第一歩として、雄花、雌花の蕾における以下の遺伝子の発現を半定量的RT-PCR法により解析した。1)キュウリ子葉の老化期からプログラム細胞死(PCD)期において強い発現を示すmatrix metalloproteinase(MMP)遺伝子。2)短日処理を行った混性型キュウリの茎頂で強い発現を示すCs cyclin-related(CsCYR),Cs cyclophilin(CsCYP)遺伝子。3)6種類の細胞周期関連遺伝子群(CsCycA, CsCycB, CsCYD3:1, CsCYD3:2, CsCDKA, CsCDKB)。その結果、MMP遺伝子は雄花の蕾では雌しべが退化した領域で、また、雌花の蕾では雄しべが退化した領域で強い発現を示した。このことから、雄花、雌花ともに、発育が抑制される方の生殖器官はPCDにより退化することが示唆された。CsCYP遺伝子の発現は雄花と雌花の蕾で同程度であったのに対し、CsCYR遺伝子は雄花に比べて雌花の蕾で強い発現を示した。CsCYR遺伝子は雌花の蕾において雄しべが退化した領域で強い発現を示した。CsCycA, CsCycB, CsCYD3:2遺伝子についても雌花の蕾において雄しべが退化した領域で強い発現を示した。このことから、雌花の蕾において、雄しべの発育抑制にはCsCYR, CsCycA, CsCycB, CsCYD3:2遺伝子が関与する可能性が示唆された。以上から、雌花の蕾における雄しべの発育抑制には細胞周期の促進とPCDが密接に関連するものと考えられた。
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