研究課題/領域番号 |
23780027
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
三柴 啓一郎 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (70390888)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | DNAメチル化 / リンドウ / 分子育種 / 園芸 / サイレンシング / 遺伝子組換え |
研究概要 |
申請者はまず、リンドウに導入した外来遺伝子における発現抑制の標的配列を検証するために、導入したT-DNAの全領域を対象としたバイサルファイト法による詳細なDNAメチル化解析を行った。その結果、高頻度にde novo DNAメチル化が起きている領域が35Sエンハンサー領域中に2ヶ所存在した。これらの領域において、リンドウ内在の核因子が共通して結合する配列を含むことが、EMSAにより示された。このことから、この配列に結合する核因子が、リンドウの配列特異的メチル化に関与している可能性が示された。 申請者はまた、形質転換リンドウの懸濁培養細胞を用いて、DNAメチル化およびヒストン修飾と遺伝子発現抑制の関連性について調査した。懸濁培養細胞は、サイレンシングの状態が異なる2種類(初代培養細胞、再誘導培養細胞)を誘導して用いた。導入した35S-sGFP遺伝子のGFP蛍光は、初代培養細胞では観察されたが、再誘導培養細胞では見られなかった。バイサルファイト法で35Sプロモーター領域のDNAメチル化を解析したところ、再誘導培養細胞と形質転換植物体において高頻度のメチル化が確認されたが、初代培養細胞では、DNAメチル化が殆ど生じていなかった。クロマチン免疫沈降(ChIP)法により、35Sプロモーター領域におけるヒストン修飾を比較した結果、再誘導培養細胞は初代培養細胞と比較してヒストンH3のアセチル化が減少し、逆にLys4とLys9のジメチル化が増加していることが示された。以上の結果より、リンドウにおける外来遺伝子発現抑制は、35Sプロモーター領域における高頻度DNAメチル化およびヒストンの脱アセチル化に起因することが示された。 以上の研究成果は、リンドウにおける発現抑制機構の実態解明につながる重要な手がかりになり、また植物の分子育種を行ううえで有益な知見となることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究により、リンドウの発現抑制機構の解明に向けた基礎的知見が得られた。申請者のこれまでの研究から、de novoメチル化のターゲット配列が外来遺伝子として導入した35Sプロモーター配列に存在し、リンドウの核因子と結合することが示されていたが、本研究でT-DNA領域全体のDNAメチル化解析を行った結果、高頻度にde novoメチル化が起きている領域は35Sエンハンサー領域中に2ヶ所のみ存在することが明らかになった。さらにこれらの領域では、リンドウ内在の核因子が共通して結合する配列を含むことがEMSAにより示されたことから、この配列に結合する核因子がリンドウの配列特異的DNAメチル化機構に関与していることが推察された。 一方、リンドウ培養細胞の研究から、リンドウの発現抑制現象では35Sプロモーター領域のDNAメチル化に加えて、ヒストンの脱アセチル化が関与していることが示された。ここで発現抑制が起きていない培養細胞においても、上記の領域でde novoメチル化が低頻度に起きていることが判明したため、この領域のde novoメチル化がヒストン脱アセチル化より前の、発現抑制の初期段階に起きていることが予想された。 これらの成果より、本研究の目的である「配列特異的なde novoメチル化の分子機構の解明」に向けた基礎的知見が得られたと思われる。現在得られた核因子の結合配列を「おとり配列」とした酵母ワンハイブリッド法の解析を進めており、本年度の研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
申請者の本年度の研究より、de novoメチル化のターゲット配列がリンドウの核因子と結合することが示されている。この配列に結合する因子がde novoメチル化に関与している可能性が高いと考えられるため、このターゲット配列を「おとり配列」とした酵母ワンハイブリッド法を行い、リンドウのcDNAライブラリーより「おとり配列」に結合する因子をスクリーニングする。 一方、シロイヌナズナDRMのようなde novo DNAメチル化酵素は高等植物で広く保存されているので、リンドウからこのDRMホモログを単離し、この酵素と結合する因子を探索する。申請者はリンドウDRMホモログのcDNA部分配列を既に単離しており、この配列情報をもとにRACE法でコード領域の全配列を決定する。このリンドウDRMホモログの全部または一部のcDNA配列を酵母ツーハイブリッド法の「おとりタンパク質」に用いて、リンドウcDNAライブラリーよりスクリーニングを行う。 酵母ワンハイブリッド法でDNA結合因子が得られた場合、ゲルシフトアッセイやDNaseIフットプリント法等で確認する。さらにこの翻訳産物を「おとりタンパク質」とした酵母ツーハイブリッド法を行って、リンドウのcDNAライブラリーより「おとりタンパク質」に結合する因子をスクリーニングする。また同時にDRMホモログや、DRMホモログのツーハイブリッドスクリーニングによって得られた因子との相互作用について、ツーハイブリッド法で確認する。また得られたDNA結合因子をタバコに導入して、35Sエンハンサー領域のメチル化が誘導されるかを確認する。さらに得られた因子の細胞内局在やin vitroでの結合についても観察し、これらの結果を統合して配列特異的なde novoメチル化のモデルを構築する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究計画を遂行するにあたり、研究機器については現研究体制(研究協力者である大阪府立大学 小泉教授との研究グループ体制)で使用している研究備品に加え、必要に応じて、大阪府立大学、もしくは岩手生物工学研究センターの共同利用機器を利用することで、本研究経費(設備備品費)で新規に購入する必要は無いものと考える。本年度は、酵母ワンハイブリッドやツーハイブリッド実験の遂行が若干遅れたために、それに必要な試薬類の購入費用の一部が次年度に持ち越しとなった。また、次年度の研究費については、消耗品費に加えて、組換え植物の作出や、ライブラリースクリーニング実験の研究をサポートしてくれる研究補助員への謝金に使用する予定である。
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