研究課題/領域番号 |
23780029
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研究機関 | (財)岩手生物工学研究センター |
研究代表者 |
高橋 秀行 (財)岩手生物工学研究センター, 細胞工学研究部, 主任研究員 (00455247)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 花卉 |
研究概要 |
休眠は、多年生植物が持つ優れた生存戦略の一つである。休眠により環境ストレス耐性が付与されることで、長期間の生存が可能となる。他方、多年生花卉の周年開花を目指す上で最大の障害となっている。その解決には、休眠機構を解明し、人為的に休眠を調節する必要があるが、現在までに成功例はない。そこで本研究では、多年生花卉であるリンドウをモデルに、越冬芽の休眠調節機構の解明を目指した。これまでに、ゲンチオオリゴ糖と呼ばれるゲンチオビオースとゲンチアノースが休眠を調節している可能性が見出されており、新規休眠調節因子と予想されるゲンチオオリゴ糖を調節する代謝経路の探索と機能解明に向け研究を推進している。 平成23年度は、ゲンチオオリゴ糖代謝経路の探索を計画し、予想代謝経路を基に、本経路に属する代謝物の定量、酵素遺伝子の単離及び発現解析を実施した。これまでの成果として、越冬芽の休眠期には、これまでに明らかにしたゲンチオビオース以外に、グルコース、グルコース6リン酸、UDPグルコース等が同様に変動することをメタボローム解析により見出した。さらに、関連酵素の遺伝子をリンドウから単離し、発現変化を経時的に調査した結果、休眠誘導期~休眠期~萌芽期にかけて関連酵素群の発現が大きく変動することが明らかとなった。これらの結果はメタボローム解析から得られた代謝物変動と一致しており、ゲンチオオリゴ糖の調節と共に、リンドウの休眠の鍵となる酵素である可能性が示唆された。今後は、ゲンチオオリゴ糖の作用機序並びに代謝フラックスを明らかにすることで、本オリゴ糖の機能が解明され、植物の休眠調節の更なる理解と共に新たな休眠調節技術の確立が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全体計画の研究項目は、1)ゲンチオオリゴ糖を合成・分解する酵素の精製、2)休眠過程(誘導、休眠、萌芽)におけるゲンチオオリゴ糖組成を調節するメカニズムの解明、3)ゲンチオオリゴ糖による休眠制御メカニズムの解明である。平成23年度は1)と2)を実施する予定となっている。1)に関して、ゲンチオビオースを分解する酵素はβ-1,6グルコシダーゼ活性を標的に、Phenyl、MonoQ、MonoSカラム等を使用して部分精製に至っている。ゲンチアノース分解酵素は、ゲンチアノースの構造からインベルターゼが分解すると予想されることから、市販のインベルターゼを使用し、ゲンチアノースがゲンチオビオースに分解されることを確認している。以上のように、最終的な単離には成功していないが、ゲンチオオリゴ糖を分解する酵素は特定できている。合成酵素に関しては、現在、メタボローム解析を用いた解析法を検討している。2)に関しては、予想代謝経路を基に、関連する酵素群の遺伝子を全て単離した。それら遺伝子について、10月から4月の越冬芽を使用して、経時的な発現解析が終了している。また、関連代謝物に関しても同様に経時的な解析が終了している。さらに、それ以外の代謝系への影響を明らかにするため、メタボローム解析を行い、網羅的な代謝変動の結果を得ている。 計画目標であった経路の詳細な解明には至っていないが、休眠過程の変遷時に変動する代謝物並びに酵素遺伝子は解明され、調節に関わる代謝経路の特定には至っている。ゲンチオオリゴ糖組成の調節機構についても、中心部は明らかとなっており、研究目的はほぼ計画通りに達成できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に終了予定であった分解酵素の精製が現在進行しており、精製終了後、ペプチドシークエンス及びMS/MS解析等により、精製蛋白質のアミノ酸配列を決定し、その配列情報に基づいて遺伝子情報を獲得する。得られた情報を基に、リンドウ越冬芽での発現解析を行い、ゲンチオオリゴ糖の調節機構の詳細を明らかにする。また、これまでの研究成果から、ゲンチオオリゴ糖が越冬芽の休眠及び萌芽に関与することが明らかになりつつある。しかしながら、本オリゴ糖自体が直接休眠に影響するのか、本オリゴ糖由来の代謝物が働くことで休眠に影響するのかは不明である。それを明らかにするため、培養に成功している越冬芽を使用し、ゲンチオオリゴ糖を取込ませた後の代謝変化をメタボローム解析により明らかにする。特に休眠にはエネルギー物質の調節が関与すると予想されることから、本オリゴ糖に影響されるエネルギー代謝に注目し、休眠制御の実態解明を目指す。また、本オリゴ糖由来の代謝物が作用する可能性に関しては、安定同位体を用いた手法を計画しており、標識オリゴ糖の作製と培養越冬芽への取り込みを行う予定である。取り込まれたオリゴ糖が、どの様な代謝物へと変換され利用されるかをメタボローム解析で明らかにすることで、本オリゴ糖の作用機序を解明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、これまでに明らかにした関連代謝物・遺伝子の解析がメインとなる。これらの実験系は既に確立されており、ルーチンで行うことが可能となっているが、試料の処理やサンプル調整には多くの労力と時間を要するため、研究費を用いて研究支援者を雇用し作業を進める。また、市販されている抽出用カラム及びフィルターを購入・使用することで迅速化を図る計画となっている。また、安定同位体を用いた実験を行う予定であり、13C6グルコースと13C6シュクロースを購入する。メタボローム解析に関しては、CE/MS用キャピラリーと、各種有機溶媒に要する資金を研究費から支出する。精製された酵素(グルコシダーゼ等)についてアミノ酸配列分析を外部委託する予定となっている。得られた成果については、国内外学会や学術論文を通して公表する予定であり、学会参加費、外国語論文の校閲料金、投稿料及び印刷料として研究費を使用する予定である。
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