研究課題/領域番号 |
23780036
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研究機関 | 独立行政法人酒類総合研究所 |
研究代表者 |
小山 和哉 独立行政法人酒類総合研究所, その他部局等, 研究員 (30416424)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 園芸学 / 果樹 / 二次代謝 / 遺伝子 / ストレス |
研究概要 |
植物の二次代謝産物であるフラボノイド化合物は抗酸化性,抗微生物性,抗ウィルス性,抗癌性など多くの機能性をもつことから,注目される化合物である。また,色や呈味性をもち,ブドウ果実を利用した加工飲料など(特にワイン)における官能特性を決定づける重要な因子でもある。平成23年度は、異なる環境下で栽培したブドウ果実より調整したサンプルを用いて、果実組織におけるフラボノイドの量や組成の変動について詳細に解析するとともに、遺伝子発現について、網羅的な遺伝子発現法であるSuperSAGE法を用い解析を行った。 ワイン用ブドウ品種カベルネソーヴィニヨンの果房を開花期より遮光箱、UVカットフィルム等による遮光処理/遮光解除処理を行い、受光環境の異なる果皮を経時的にサンプリングした。また、幼果をMS培地上で果粒培養し、白色光及びUV光による照射処理を行った果皮の各フラボノイド組成の解析及び既知の生合成系遺伝子群のRNA量の測定を行った。その結果、果皮の各フラボノイド(プロアントシアニジン、フラボノール、アントシアニン)の含量及び組成は、環境変化、発達時期に応じ異なる変動を示し、既知の生合成系遺伝子の発現変化とも良く対応していた。 次に、これらのサンプルに、各発達時期の種子サンプルを加えた17サンプルよりRNAを調整した。制限酵素、タギング酵素によりmRNAの特定の位置より26塩基のタグを抽出し、次世代シーケンサーにてシーケンス解析を行った(SuperSAGE法)。シーケンスされたタグ(遺伝子)とタグ数からブドウ果実で発現している各種遺伝子の網羅的な発現プロファイル情報を得た。発現プロファイルを、既知のフラボノイド生合成系遺伝子の発現と比較し、同調して遺伝子発現の変化する遺伝子群を抽出した。その中にはフラボノイド生合成系の制御や前駆体の修飾などと関連すると考えられる遺伝子も含まれていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに各種環境下のブドウ果実を経時的にサンプリングを行い、解析のためのサンプルを取得していたが、本年度はこれらのサンプルにおけるフラボノイド組成(ポリマーであるプロアントシアニジンを含む)について詳細に検討を行った。各種フラボノイドは環境及び果実発達時期によって様々に変化し、サンプル間のフラボノイド組成は大きく異なることが確認された。同時に、果房周囲の光環境などの環境要因がフラボノイド組成(特にプロアントシアニジンの含量及び組成)に及ぼす影響について明らとし、学会発表を行った。 得られたサンプルを用いて、当初の計画どおり、網羅的な遺伝子発現解析であるSuperSAGE法を行なった。シーケンスによって各サンプルあたり7万~85万のタグが得られ、このうち、頻度が2以上であるタグとして葯5万4千タグがえられ、今後の解析に使用可能なブドウ果実の各種遺伝子の網羅的な発現プロファイル情報が得られた。 更に、既知のフラボノイド生合成系遺伝子の発現と同調して遺伝子発現の変化する遺伝子群を抽出することができたが、これらについては当初の計画以上に進展していると考えられた。しかし、今後さらなる、タグのアノテーションの改善、フラボノイド生合成系に関連する候補遺伝子の絞り込み方法の検討などが必要であると考えられた。 以上のことより全体としては、計画通り、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
SAGE解析より得られた果実で発現のみられる各種遺伝子の発現プロファイルをフラボノイド量・組成及び既知フラボノイド生合成系関連遺伝子の発現プロファイルと比較することにより,ブドウ果実における各フラボノイド生合成系に関連する候補遺伝子について絞り込む。今後は、特にタグ(遺伝子)のアノテーションの改善、絞り込み方法について検討を行う。 次に、候補遺伝子についてブドウ、シロイヌナズナなどを用いた形質発現体の作成,精製酵素による生化学的解析などにより,その機能について明らかとする。【具体的な実施方法】(1)果房への日照など各種環境下におけるプロアントシアニジンなどの含量や組成の変化に関与する因子(制御因子など)について,これらの変化に関連する既知遺伝子(フラボノイド生合成経路上で働く)と同調的に発現が変動する遺伝子群より絞り込む。また,各フラボノイド前駆体の修飾などに関連する生合成系遺伝子についても着目する。(2)ブドウやシロイヌナズナを用いた候補遺伝子の形質転換体作成・解析(特に制御因子などの解析において),また,精製酵素を用いた生化学的な解析(修飾等に関与する生合成系関連遺伝子の解析など)を行い,フラボノイド代謝に関連すると考えられる新規候補遺伝子の機能について検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の直接経費の物品費としては、遺伝子発現の定量PCRによる確認、形質転換体作成・解析に関する費用を計上している。特に、価格の高いものとしては、形質転換体の解析にあたって使用予定であるNimblegen製マイクロアレイ等解析にかかる費用である。その他の主なものとしては、プライマー作成費、各種酵素類などの試薬類の費用が予想される。 また、形質転換体の解析によりその遺伝子の機能について一定の結果が得られれば、学会発表、論文執筆等を行い、かかる費用を旅費、その他経費として使用する計画としたい。
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