研究課題/領域番号 |
23780039
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
宇佐見 俊行 千葉大学, 園芸学研究科, 助教 (50334173)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 植物病原菌 / 病原性 / 病原力 / 非病原力遺伝子 / 真性抵抗性 |
研究概要 |
Verticillium dahliaeのトマト系レース1菌株のcDNAライブラリーを作成し、トマト系およびトマト・ピーマン系のレース1に特異的な領域を含む約32kbpのDNA配列(TomR1)をプローブとして選抜を行ったところ、478bpのcDNAが得られた。この塩基配列をゲノムDNA配列と比較したところ、5´非翻訳領域内に55bpのイントロンを持ち、135アミノ酸をコードする推定ORFを含む転写領域(ORF1と仮称)がTomR1内に確認された。そこで、ORF1およびその上流約500bpを含むゲノムDNA断片をサブクローニングし、糸状菌で働くハイグロマイシンB耐性遺伝子を含むプラスミドベクターpUCH1に挿入した。このプラスミドを用いてトマト系レース2(3菌株)を形質転換した。トマト系レース2の菌株は本来ORF1を持たないが、形質転換株はいずれもORF1を持ち、転写も確認された。そして、真性抵抗性遺伝子Veを持つトマト品種(桃太郎)に対する接種試験を行ったところ、非形質転換株およびpUCH1による形質転換株が病原性を示したのに対して、各形質転換株は病原性を示さなかった。従って、ORF1はVeの翻訳産物により認識される非病原力因子(AVR)をコードする遺伝子であると考えられた。一方、Veを持たないトマト品種(大型福寿)に対する接種試験では、非形質転換株およびpUCH1による形質転換株が弱い病徴しか示さないのに対して、各形質転換株は非常に強い病原性を示した。従って、ORF1の翻訳産物はトマトに対する基本的な病原力を担うエフェクターであると考えられた。なお、本研究の過程でオランダのワーゲニンゲン大学の研究チーム(カリフォルニア大学のメンバーを含む)がレース間のゲノム比較により同様の配列を見出したことが判明したため、以降は共同研究として双方の情報を共有しながら作業を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画していた通り、TomR1の中にVerticillium dahliaeの病原性およびレースの決定に関与する遺伝子を見出すことに成功した。本来は24年度まで継続的に行う予定であった内容(見出された遺伝子の病原性への関与調査、非病原力遺伝子としての作用の調査、レース判別用のPCRプライマーの作成)についてもすでに成果が得られているため、当初の計画以上に進展したと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に計画していた研究内容のうち、「見出された遺伝子が非病原力遺伝子としての作用を持つか調査する」については、すでに結果が得られている。また、「見出された遺伝子にコードされるタンパク質の性状を調査する」については、見出された遺伝子にコードされているタンパク質のアミノ酸配列が植物のエクスパンシンと非常に相同性が高く、配列情報からその機能を推定することが可能であるため、当初計画していたような手の込んだ機能解析の必要がなくなった。一方で、「見出された遺伝子と病原性との関連性を調査する」については、本遺伝子がトマトに対する基本的な病原性にどの程度貢献しているかが十分解明できていないため、トマトに病原性を持たない菌に本遺伝子を導入するなどして引き続き調査する必要がある。また、「PCRを用いて菌株の病原性を判定する方法を開発する」についても、菌のレースを判定するためのプライマーはすでに開発できているが、トマトに病原性を持つ菌を識別するためのプライマーとしては検討が十分ではないため、引き続き研究を行う。これらに加え、当初の研究計画になかったことであるが、農業現場に発生している菌株を幅広く対象とし、本当に本遺伝子の有無が菌の病原性系統やレースと一致しているかどうか(例外的な菌が存在しないかどうか)を調査する。さらに余裕があれば、本遺伝子以外に本菌のトマトに対する病原性に関与する遺伝子が存在すると考えられる場合においては、その探索に着手する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度の研究においては、病原性系統およびレースに特異的なDNA配列中に存在する遺伝子の探索が極めて順調に進んだことに加え、同様の配列を見出して研究していることが判明したワーゲニンゲン大学およびカリフォルニア大学の研究チームとも情報を共有したこともあり、効率的に研究が進んだ。そのために当初の予定より物品費が抑えられた。また、共同研究先と結果公表時期を調整する関係で、平成23年度は成果公開にかかる経費(旅費、その他)も当初予定通りには執行しなかった。平成24年度には論文投稿および学会発表により成果公開を行う予定なので、平成24年度に持ち越した経費と合わせて執行する。物品費の持ち越し分についても、平成24年度には当初の研究計画にはなかった追加の調査や研究も行う予定であるので、これに充てる。
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