研究課題/領域番号 |
23780045
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研究機関 | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
八重樫 元 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 果樹研究所 リンゴ研究領域, 任期付研究員 (90582594)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 菌類ウイルス / RNAサイレンシング / サイレンシングサプレッサー / 白紋羽病菌 / マイコレオウイルス3 |
研究概要 |
RNAサイレンシングは真核生物に広く保存されたウイルス感染に対する基礎的防御機構である。本研究では、果樹類難防除病害である白紋羽病菌と菌類ウイルスの一種であるマイコレオウイルス3を研究モデルとして、菌類ウイルスによるRNAサイレンシング誘導・抑制機構の解明を目的としている。平成23年度は当初計画に従い、マイコレオウイルス3のRNAサイレンシングサプレッサー(RSS)の同定を実施した。まずはGFP遺伝子のRNAサイレンシングが誘導されている白紋羽病菌株(riGFP株)にマイコレオウイルス3を感染させ、GFP遺伝子のRNAサイレンシングが抑制されることを証明した。次に植物を用いた実験系、Nicotiana benthamianaを用いたアグロインフィルトレーションアッセイでマイコレオウイルス3のコードする12遺伝子(P1-P12)にRNAサイレンシング抑制効果があるかを調べた。その結果、P10遺伝子にRNAサイレンシング抑制効果が認められた。さらに、P10遺伝子が白紋羽病菌でもRNAサイレンシング抑制効果を示すか調べるため、riGFP株にP10遺伝子を導入した形質転換株を作出したところ、P10遺伝子導入株ではGFP遺伝子のRNAサイレンシングが抑制された。また、P10遺伝子翻訳産物に特異的な抗体を作出し、マイコレオウイルス3感染菌体でP10タンパク質が蓄積することを明らかにした。以上の結果より、マイコレオウイルス3はP10遺伝子を発現してRNAサイレンシングを抑制することが示された。菌類ウイルスでRSSが同定されたのは世界で2例目であり、RSSとしてのP10遺伝子がマイコレオウイルス3の感染過程でどのような役割を果たしているのか今後の研究が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、白紋羽病菌と菌類ウイルスの一種であるマイコレオウイルス3を研究モデルとして菌類ウイルスのRNAサイレンシング誘導・抑制機構を解明することである。平成23年度は計画に従いマイコレオウイルス3のRNAサイレンシングサプレッサー(RSS)の同定を実施し、植物および白紋羽病菌においてP10遺伝子がRSSとして機能することを明らかにした。この成果により、本研究の目的の一つであるマイコレオウイルス3によるRNAサイレンシング抑制機構の解明がほぼ達成できたと考えられ、今後補足データを加えて原著論文にまとめる予定である。また、平成23年度は当初予定よりも順調に研究が進展したため、平成24年度に予定しているマイコレオウイルス3由来スモールRNAの網羅的分析を前倒しで実施した。これにより今後の研究を円滑に進めることができると期待される。以上より、平成23年度は当初計画された研究で着実に成果を挙げることができ、次年度の準備状況も十分であることから研究はおおむね順調に進展していると評価するのが妥当と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度は計画通りに研究を実施し、おおむね順調に成果を挙げることができた。今後も計画に従って研究を進めていく予定である。 平成24年度はマイコレオウイルス3のRNAサイレンシング誘導機構を明らかにするため、マイコレオウイルス3由来スモールRNAの高速シーケンスを利用した網羅的分析を行う。高速シーケンスは平成23年度に前倒しで外注している。また、平成23年度に作出されたマイコレオウイルス3のRSS遺伝子を発現する白紋羽病菌株にマイコレオウイルス3を感染させ、RSS遺伝子の恒常的な発現がウイルス増殖量や菌体内分布に及ぼす影響を明らかにする予定である。 平成25年度には、平成24年度に明らかにされるマイコレオウイルス3のRNAサイレンシング標的領域の一部をGFP遺伝子に連結したセンサーGFP遺伝子を発現する白紋羽病菌(s-GFP)を作出し、そのs-GFP株にマイコレオウイルスを感染させ、菌体内でマイコレオウイルス感染に対するRNAサイレンシングが誘導される領域と抑制される領域をGFP蛍光の有無で可視化する。この結果とウイルス分布の結果を照らし合わせ、RNAサイレンシングとウイルス分布の関連を明確にする。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究課題の推進のため、次年度の研究費は、交付申請時から前倒し請求時に変更した計画通り使用する。なお次年度使用額748,379円のうち640,500円は平成23年度に前倒しで発注した高速シーケンス受託料金分であり、既に契約済みで平成24年度に支払い予定である。残りの107,879円は研究費を効率的に発注した残額であり、次年度に請求する研究費と合わせて研究計画遂行のために使用する。
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