研究課題/領域番号 |
23780045
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研究機関 | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
八重樫 元 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 果樹研究所 リンゴ研究領域, 任期付研究員 (90582594)
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キーワード | 菌類ウイルス / 白紋羽病菌 / RNAサイレンシング / サプレッサー / siRNA / 高速シーケンス |
研究概要 |
RNAサイレンシングは真核生物に広く保存されたウイルス感染に対する基礎的防御機構である。本研究では、果樹類難防除病害である白紋羽病菌と菌類ウイルスの一種であるマイコレオウイルス3を研究モデルとして、菌類ウイルスによるRNAサイレンシング誘導・抑制機構の解明を目的としている。前年度までに、マイコレオウイルス3が白紋羽病菌でRNAサイレンシングを抑制することを明らかにしている(論文投稿準備中)。本年度は当初計画に従い、マイコレオウイルス3がRNAサイレンシングの標的になるか調べるため、RNAサイレンシングが誘導されていることの指標となるスモールRNA(siRNA)が、マイコレオウイルス3感染白紋羽病菌で蓄積するかを高速シーケンサーを用いて解析した。 高速シーケンスの結果、全体で約1億3千万の17-25塩基長の配列が得られ、そのうち、約11%がマイコレオウイルス3由来siRNA(vsiRNA)であった。vsiRNAは20-21塩基長のものが最も多く、5'末端の塩基種はAとUに偏る傾向があった。また、vsiRNAはマイコレオウイルス3の12セグメントのゲノム二本鎖RNAに分布し、ほとんどのセグメントでプラス鎖とマイナス鎖にほぼ均一に分布した。すなわち、ゲノム二本鎖RNAがRNAサイレンシングの標的になると考えられた。さらに、各ゲノムセグメントにおけるvsiRNAの分布状況を調べたところ、vsiRNAは不均一に分布することが明らかとなった。以上より、マイコレオウイルス3はRNAサイレンシングの標的となることが証明されたことに加えて、vsiRNAの興味深い特徴を見出した。今後、これらの特徴がマイコウイルス全般に当てはまることなのかを解析することで、マイコウイルスに対するRNAサイレンシングの働きを理解することができると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、白紋羽病菌と菌類ウイルスの一種であるマイコレオウイルス3を研究モデルとして菌類ウイルスのRNAサイレンシング誘導・抑制機構を解明することである。本年度は計画に従い、マイコレオウイルス3がRNAサイレンシングの標的になるか調べるため、RNAサイレンシングが誘導されていることの指標となるスモールRNA(siRNA)が、マイコレオウイルス3感染白紋羽病菌で蓄積するかを高速シーケンサーを用いて解析した。その結果、マイコレオウイルス3由来siRNAが蓄積することを明らかにし、マイコレオウイルス3はRNAサイレンシングの標的となることを証明した。さらに、vsiRNAの詳細な解析から、5'末端塩基種の偏りや、ゲノムセグメント上での不均一な分布などのいくつかの興味深い特徴を見出すことができた。これらの特徴がマイコレオウイルス3にだけ認められるものなのか、あるいは他マイコウイルスにも当てはまるのかを解析するため、マイコレオウイルス3を含む4種マイコウイルス由来siRNAの高速シーケンス解析を実施している。これにより、本年度のマイコレオウイルス3における結果の再現性を確認し、今後の研究を円滑に進めることができるばかりではなく、他種マイコウイルスにおける結果と比較することで、想定以上の知見が得られると期待される。また、前年度の成果も予定通りデータをまとめ、投稿準備中である。以上より、平成24年度は当初計画された研究で着実に成果を挙げることができ、次年度の準備状況も十分であることから研究はおおむね順調に進展していると評価するのが妥当と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は計画通りに研究を実施し、おおむね順調に成果を挙げることができた。平成25年度も計画に従って研究を進めていく予定である。本年度から実施しているマイコレオウイルス3を含む4種マイコウイルス由来siRNAの高速シーケンス解析を行い、本年度に実施したマイコレオウイルス3由来スモールRNAの大規模解析の結果の再現性を確認し、マイコレオウイルス3のRNAサイレンシング標的領域の一部をGFP遺伝子に連結したセンサーGFP遺伝子を発現する白紋羽病菌(s-GFP)を作出し、そのs-GFP株にマイコレオウイルスを感染させ、菌体内でマイコレオウイルス感染に対するRNAサイレンシングが誘導される領域と抑制される領域をGFP蛍光の有無で可視化する。この結果とウイルス分布の結果を照らし合わせ、RNAサイレンシングとウイルス分布の関連を明確にする。 さらに、マイコレオウイルス3を含む4種マイコウイルスのsiRNAの蓄積量や特徴を解析し、各ウイルスがどのようにRNAサイレンシングを誘導するのか特徴づけを行う。マイコレオウイルス3以外の3種マイコウイルスはRNAサイレンシング抑制能を持たないことが明らかとなっており、これらのマイコウイルスがどのようにRNAサイレンシングを誘導・回避するのかを明らかにすることで、マイコウイルスとRNAサイレンシングの相互作用の理解をさらに深めることができると期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究課題の推進のため、次年度の研究費は、交付申請時から前倒し請求時に変更した計画通り使用する。なお残額263,414は平成24年度に発注した高速シーケンス配列解析業務の料金(378,000)に資する予定であり、既に契約済みで平成25年度に支払い予定である。
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