RNAサイレンシングは真核生物に広く保存された塩基配列特異的RNA分解機構であり、ウイルス感染に対する防御機構として重要な役割を担っている。本研究では、果樹類の重要病原糸状菌である白紋羽病菌とそれに感染する菌類ウイルス(マイコウイルス)の1種であるマイコレオウイルス3をモデルとしてRNAサイレンシング誘導・抑制機構について解析した。 平成23年度はマイコレオウイルス3が白紋羽病菌においてRNAサイレンシングを抑制することを世界で初めて明らかにした。加えて、植物を用いた一過的遺伝子発現アッセイにより、マイコレオウイルス3のコードする12遺伝子のうちS10遺伝子がRNAサイレンシングサプレッサー活性を有していることを明らかにした。 平成24年度には、マイコレオウイルス3がRNAサイレンシングの標的となるか証明するため、RNAサイレンシング誘導の指標であるスモールRNAを高速シーケンサーで大規模解析した。その結果、菌体スモールRNAの約10%がマイコレオウイルス由来であることが明らかになった。 平成25年度には、マイコレオウイルス3以外の4種マイコウイルス(パルティティウイルス、クアドリウイルス、ビクトリウイルス、メガビルナウイルス)についてもスモールRNAの大規模解析を行ったところ、パルティティウイルスは4.2%、クアドリウイルスは1.2%、ビクトリウイルスは0.3%、メガビルナウイルスは17.6%であった。特筆すべきは、菌の生育や病原力を低下させるマイコレオウイルス3やメガビルナウイルスのスモールRNA蓄積量が比較的高いことであり、表現型に影響を及ぼすマイコウイルスはRNAサイレンシングの標的にされやすいことが示唆された。すなわち、マイコレオウイルス3はRNAサイレンシングに対抗するためサイレンシング抑制機構を獲得したものと考えられた。
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