研究課題
環境保全型水田には多様なクモが生息しており、イネの上部にはアシナガグモ属が、イネの株元にはコモリグモ科がそれぞれ優占している。アシナガグモ属が張る水平円網の被度は著しく高いため、イネ害虫アカスジカスミカメ(以下アカスジ)が網にかかる光景が頻繁に観察されたが、網が脆弱なためアカスジは直後に落下してしまうことが多かった。水田内に侵入したアカスジは、通常イネの穂付近やイネ上部に生息するが、アシナガグモの網がアカスジを落下させることにより、株元付近に生息するコモリグモ類がアカスジを捕食する可能性が考えられた。本研究では、害虫が水田侵入時にアシナガグモの網に引っ掛かり株元に落下することで、徘徊性のコモリグモ類による害虫の捕食頻度が増加するという仮説を、野外パターン調査や害虫のDNAマーカーを用いたクモ類の胃内容分析等から検証した。前年度までに概ね野外調査は終わっており、今年度はデータの統計解析及び論文執筆、学会発表を中心に行った。これまでの成果から本研究の仮説を支持する結果が複数得られているが、一方でいくつかの課題が残っている。本研究の仮説は、「アシナガグモの網がアカスジを頻繁に落下させる」という前提で成り立っている。この前提を検証する野外実験を試みたが、実験区の設置が思うようにいかず本科研課題の期間中にこの前提を検証することはできなかった。また本研究で注目したアシナガグモとコモリグモの相乗的な害虫捕食効果が被害軽減にどの程度貢献するのかを明示的に検証する必要がある。今後はこうした課題に取り組んでいきたいと考えている。
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Journal of Insect Science
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