研究課題/領域番号 |
23780050
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
水口 智江可 名古屋大学, 生命農学研究科, 助教 (90509134)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 昆虫 / 発生・分化 / 幼若ホルモン |
研究概要 |
昆虫の脱皮・変態を制御する脱皮ホルモンと幼若ホルモン (JH) は、胚発生においても重要な役割を果たすと考えられているが、その詳細は不明である。本研究では、昆虫の胚発生におけるホルモンの濃度変動・役割・およびシグナル伝達経路の解明を目的とし、モデル昆虫の一つであるコクヌストモドキを用いて実験を進めた。これまでの研究成果の概要は以下の通りである。【胚期におけるJH生合成酵素の発現解析】JH生合成経路の最後の2ステップを触媒するJH酸メチル基転移酵素 (JHAMT) およびエポキシダーゼ (CYP15) に関して、コクヌストモドキ胚期における発現変動を定量PCRで詳細に調査した。その結果、胚期の半ば頃から急速にJHAMTおよびCYP15のmRNA量が増加したことから、この時期にJH生合成器官が形成され生合成が始まるものと考えられた。【胚期におけるJH誘導性遺伝子の発現解析】幼虫期や蛹期にJH誘導性遺伝子として知られている転写因子Kruppel homolog 1 (Kr-h1) の、胚期での発現変動を定量PCRで調べたところ、発現時期がJH生合成時期とほぼ一致することがわかった。またJH生合成開始以前のJH濃度の低いと思われる時期に外部からJH様活性物質を投与するとKr-h1の発現が顕著に誘導された。これらのことから、胚期においてもKr-h1がJH誘導性遺伝子としてJHシグナル伝達に関わることが示唆された。【胚期の器官形成におけるJHの役割に関する解析】コクヌストモドキ胚期において、JH受容体遺伝子Methoprene-tolerant (Met) をRNAi法によりノックダウンしたところ、大半の個体が胚期あるいは1齢幼虫で致死となった。一方、同様の手法でJH生合成酵素のノックダウンを試みたが、今のところ高い効率でノックダウンを行うことができず、実験条件の検討を続けている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、上記の研究概要で説明した実験に加えて、「in situハイブリダイゼーションによるホルモン生合成器官の同定」も行う予定であったが、現在実施中であり、詳細な解析は次年度以降に行うことになる。一方、次年度の研究で計画していた「胚期におけるJH誘導性遺伝子の発現解析」および「胚期の器官形成におけるJHの役割に関する解析」は、実験期間が長引くことが予想されたため、予定より早く平成23年度中に着手し、興味深い成果が得られている。このように、当初の研究計画とは順序を若干変更した部分があるものの、全体で見ると研究は概ね順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究経過を踏まえて、以下の研究計画および研究推進方策を考えている。【胚期のJH生合成器官の同定】 胚においてJH生合成器官の同定を行う前に、まずは幼虫組織に対してJH生合成酵素のプローブを用いたin situハイブリダイゼーションを行い、JH生合成器官であるアラタ体が検出されることを確認する。次に、それと共通のプローブや試薬類を用いて、胚に対してin situハイブリダイゼーションを行い、JH生合成器官を検出する予定である。【胚期の器官形成におけるJHの役割に関する解析】 これまでの研究から、胚期においてJH受容体遺伝子MetをRNAi法によりノックダウンすると致死となることが判明した。今後はMetをノックダウンした胚における器官形成の進行具合を詳細に観察する。一方JH生合成酵素に関しては、何らかの理由でノックダウンの効率が低いことから、今後は効率を高めるように条件検討を行う予定である。【胚期におけるJH誘導性遺伝子の機能解析】 これまでの研究から、胚期においてもKr-h1がJH誘導性遺伝子としてJHシグナル伝達に関わることが示唆された。そこで今後の研究では、RNAi法により胚期におけるKr-h1の機能解析を行い、JHシグナル伝達に関与するかどうか調べていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究では合計110万円の直接経費が交付される見込みであるが、その大半を試薬・消耗品などの物品の購入に充てる予定である。また、日本応用動物昆虫学会および日本農薬学会の年次大会への参加や、共同研究者との研究打合せのために国内旅費を使用する予定にしている。
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