昆虫の脱皮・変態を制御する脱皮ホルモンと幼若ホルモン (JH) は、胚発生においても重要な役割を果たすと考えられているが、その詳細は不明である。本研究では、昆虫の胚発生におけるホルモンの濃度変動・役割・およびシグナル伝達経路の解明を目的とし、モデル昆虫の一つである甲虫コクヌストモドキを用いて実験を進めた。平成25年度の主要な研究成果は以下の通りである。 【ホルモン誘導性転写因子の機能解析】broadは、後胚発生において脱皮ホルモンとJHの両方で発現制御を受け、蛹特異的遺伝子の発現を誘導する転写因子である。ショウジョウバエのbroad変異体では神経系の形態に軽微な異常が生じると報告されている。本研究でコクヌストモドキ胚期におけるbroadの発現変動を調べたところ、胚期の終盤で発現のピークが確認された。RNAi法で胚発生におけるbroadのノックダウンを行ったが、発生への影響は見られなかった。一方、JH受容体であるMetをノックダウンしてもbroadの発現量に変化はなかったことから、この時期のbroadの転写はJH以外の因子によって誘導されることが示唆された。 【JH生合成酵素の機能解析】JH生合成の最終段階を触媒することが知られているJHAMTおよびCYP15に関して、RNAi法による機能解析を行った。これらを同時にノックダウンした胚はふ化率がわずかに低下したが、JH受容体であるMetをノックダウンした時のような顕著な致死効果はみられなかった。胚期以外でも機能を解析したところ、蛹化前の翅分化に関わることがわかった。in situ hybridizationでは、JHAMTの場合と同様にCYP15のシグナルがアラタ体で観察された。このようにコクヌストモドキでもCYP15がJH生合成に関与することが示唆された。
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