研究課題
最近世界中でミツバチの原因不明の失踪(蜂群崩壊症候群,CCD)が相次いで報告されている.ミツバチは農作物の受粉に必要不可欠であり,今後これらの収穫に甚大な被害を及ぼすことが懸念される.本研究ではミツバチ失踪の原因の一つと考えられるウイルスIAPVに着目し,ウイルスを構成する殻タンパク質,およびIAPVのゲノム複製や転写に関与するRNA合成酵素の,機能解析と立体構造解析を目的としている. 上記の目的を達成するために,殻タンパク質とRNA合成酵素の組換えタンパク質を作製した.殻タンパク質はCP1からCP4まで4種類のサブユニットの組換えタンパク質を別個に発現させた.しかし,どのサブユニットも十分な発現量は得られたが,可溶性画分には含まれなかった.そこで,CP1,CP2,CP3の3種類を共発現させたところ,全てのサブユニットが溶出画分に検出された.これは3つのサブユニットが相互作用したことで可溶性が高まった結果であると考えられる.次に,このタンパク質溶液を用いてFar Western blottingを行い,殻タンパク質と相互作用するミツバチ由来因子の探索を行った結果,ミツバチの脳と消化管に含まれるそれぞれ55 kDaと80 kDaのタンパク質が検出され,IAPVの殻タンパク質と結合する候補因子であると予想された.今後はFar Western blottingで検出されたタンパク質をLC-MSで同定する. RNA合成酵素は大腸菌で発現できるサイズに6分割した部分組換えタンパク質の発現を行った.その結果,2つの部分組換えタンパク質を溶出させることに成功した.今後はこの部分組換えタンパク質の精製を行い,Far Western blottingを行って相互作用するミツバチ由来因子を探索する.また,充分量の組換えタンパク質の発現・精製・結晶化を行い,立体構造解析を目指す.
2: おおむね順調に進展している
平成23年度はIAPVの殻タンパク質およびRNA合成酵素の組換えタンパク質を合成し,そのX線結晶構造解析と酵素活性を定量することが目的であった.大腸菌および昆虫細胞を用いて行った現在までの組換えタンパク質発現では,大半のタンパク質が凝集体を形成して沈殿してしまったため,十分な高純度の可溶化組換えタンパク質は得られず,上記の実験は行うことができなかった.しかし,4種類の殻タンパク質構成サブユニットのうち,3種類のサブユニットの共発現により,Far Western blottingを行うには十分な可溶化タンパク質を得ることができたことから,平成24年度に実施予定の,IAPVのタンパク質と相互作用するミツバチ由来タンパク質の探索を前倒しで開始した.その結果,ミツバチの脳と消化管からIAPVの殻タンパク質と相互作用する因子と考えられるタンパク質を単離することに成功した.そして,RNA合成酵素も6分割したうちの2つの部分組換えタンパク質の可溶化に成功し,既に,殻タンパク質同様,Far Western blottingにより相互作用するタンパク質の探索に着手している.以上のことから,本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した.
本研究課題の達成目標には,IAPVの殻タンパク質およびRNA合成酵素のX線結晶構造解析,および組換えタンパク質のミツバチへのインジェクションに伴うミツバチの生理的・病理的変化の解析が含まれている.しかし,これまで得られた組換えタンパク質は大半が不溶化してしまうため,上記の実験を行うのに充分量かつ高い純度の組換えタンパク質を得られていない.そこで,今後は,タンパク質発現の誘導剤を加える濃度や時間,共発現させるサブユニットの組み合わせなどを検討し,より大量の組換えタンパク質を高純度で精製できる条件を検討する.
次年度も引き続き,組換えタンパク質の発現・精製を行う試薬やプラスチック用品などの消耗品の購入に支出する.また,新しいミツバチのコロニーの購入も検討中である.
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PLoS One
巻: 6 ページ: e19825
Biological Bulletin
巻: 220 ページ: 71-81