カンキツグリーニング病は、カンキツ類生産者に多大な経済的被害を及ぼしている世界的な虫媒伝染病であり、ミカンキジラミによって媒介される。研究代表者らは、カンキツグリーニング病の合理的な防除法を提案するため、同病の虫媒による単一圃場内の拡散動態をシミュレートするモデルを開発して仮想の防除法の評価を試みたが、その結果は各圃場単位の防除ではまん延を阻止できない可能性を示唆するものであった。そこで本研究では、複数圃場間の同病の拡散動態をシミュレートするモデルを開発し、それを用いて生産地単位での共同防除の重要性を評価するとともに、有効な防除法の候補を提案することを目的とした。 新たに開発したモデルを用いたシミュレーション結果から、病気がまん延し媒介虫が生息する圃場が周辺に存在する条件下では、無病苗を定植した新植圃場を開設しても、病気は数年以内に新植圃場に侵入する可能性が高いことが示された。この結果は、地域の生産者が一斉に媒介虫の防除や罹病樹の伐採を行う、などの共同防除の必要性を示唆するものであると考えられた。 無病苗を定植した新植圃場に浸透移行性殺虫剤を施用したと仮定してシミュレーションを行うと、病気がまん延している圃場から隣接圃場への病気の侵入速度が大幅に低下するとともに、隣接していない圃場への拡散は低頻度に留まる可能性が高いことが示唆された。この結果から、浸透移行性殺虫剤の適切な使用を中心とした共同防除法が構築できる可能性が高いと考えられた。しかし、各圃場の間に家庭果樹園などの無防除の小規模園が存在する条件下でシミュレーションを行うと、浸透移行性殺虫剤の効果が大幅に低下した。一方、小規模園にも全て殺虫剤を散布したと仮定すると、高い防除効果が発揮された。これらの結果から、共同防除技術を開発するにあたっては、家庭果樹園などの防除もれを防止することが重要であると考えられた。
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