研究課題/領域番号 |
23780054
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研究機関 | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
松倉 啓一郎 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 九州沖縄農業研究センター 生産環境研究領域, 研究員 (50414800)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 侵略的外来種 / 巻貝 / 分子系統樹 / 水稲 / 耐寒性 / 捕食性天敵 |
研究概要 |
23年9月に石垣島の水田地帯(計4水系)からスクミリンゴガイ(以下スクミ)とラプラタリンゴガイ(ラプラタ)を採集し、両種の分布状況を調査した。その結果、前年度までの調査で観察されたスクミの優占化は一部の地域では確認されず、ラプラタの割合が上昇した場所もあり、両種の分布割合の年次変動が確認された。 スクミとラプラタの幼貝を低温順化処理をせずに0℃条件に2日間晒すと、スクミはほぼ全ての個体が生存したが、ラプラタは全ての個体が死亡した。低温順化処理を施した個体を5℃および0℃に5日間晒した場合にも、スクミのほうがラプラタよりも高い生存率となり、スクミのほうが耐寒性が高いことが確認された。ただし、低温順化処理をしたラプラタを0℃に2日間晒すと約30%の個体は生存することから、ラプラタにおいても低温順化処理による耐寒性上昇機構の存在が示された。 分子生物学的手法による捕食性天敵に調査については、PCR法およびnestedPCR法による検出では検出感度が極めて低かったため、longPCR法による検出法の改良を試みた。この手法により捕食後3時間以内のヤゴからは100%で、捕食後6時間以内のヤゴからは約50%の割合でスクミのDNA断片を検出できた。小型カメラによる捕食性天敵の探索を実施した結果、石垣島の水田では夜間にカメ等の大型の捕食性天敵が水田内に侵入してスクミ幼貝を捕食している場面が確認され、水田内においても大型天敵がスクミの有力な天敵である示唆された。 国内および東アジア・東南アジアから採集したPomacea属について、核DNAの塩基配列情報解析によりスクミとラプラタの交雑個体の分布状況を調査した。その結果、九州以北では熊本県以外から交雑個体は検出されなかった。交雑個体は沖縄県、韓国、フィリピン、ベトナムから検出され、南方のほうが交雑個体の割合が高い(40~80%)傾向にあった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
石垣島での分布地域の調査および核DNA塩基配列の解析により、沖縄以南の地域では両種の交雑個体が広範囲に分布し、同一地域内の水田生態系におけるスクミとラプラタの分布割合も年次により大きく変動することを明らかにした。また、スクミのほうがラプラタよりも耐寒性が高いことを実験的に明らかにし、これが、九州以北でスクミが優占していることの要因のひとつであると推察された。捕食性天敵の調査においては今年度は当初予定していた分子生物学的手法による探索ができなかったが、小型カメラによる調査によって水田における大型の捕食性天敵の重要性を確認できた。以上から、研究の目的達成にたいして研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
石垣島での両種の分布状況を引き続きモニタリングすることで、同一地域内における両種の分布状況の年次変動を解明する。石垣島での調査の際にはlongPCR法等および小型カメラを用いて水田内の捕食性天敵の探索を進めるとともに、調査水田内の捕食性天敵の動態とPomacea属の個体群動態を定期的に調査する。対照として、熊本県内の水田でも同様の調査を実施する。環境への適応として、両種の乾燥耐性を比較するとともに、ストレス耐性に関連する生理的メカニズムを解明するため、ストレス上昇に対する細胞膜リン脂質の組成の影響を調査する。リン脂質はイアトロスキャンおよびガスクロマトグラフィーにより分析する予定であるが、必要に応じて究協力者に助言を求める。また、これまでの調査により耐寒性との関連が示唆されているグリセロール等について、耐寒性変動時の各関連成分合成関連遺伝子の発現をRT-Realtime PCR法によって調査する。スクミリンゴガイとラプラタリンゴガイの交雑個体について、その生物学的特性(繁殖能力、ストレス耐性等)を飼育実験により解明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究は順調に進捗しており、今後の研究の推進方策も交付申請時の計画通りである。次年度の研究費は、引き続き、本研究課題の推進のための物品費・旅費・謝金(実験補助・英文校閲)に使用する。なお、次年度使用額30,532円は、研究費を効率的に使用して発生した残額であり、次年度に請求する研究費と併せて研究計画遂行のために使用する。
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