研究課題/領域番号 |
23780061
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
青野 俊裕 東京大学, 生物生産工学研究センター, 助教 (10372418)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 窒素固定細菌 |
研究概要 |
Azorhizobium caulinodansはマメ科植物セスバニアと共生する根粒菌であり、非マメ科植物の組織内に定着する内生窒素固定細菌でもある。A. caulinodansは、ある程度酸素が存在する条件下でも窒素固定を行うことが可能であり、これは、非マメ科植物内で窒素固定を行う上での重要な特性の一つである。本研究では、A. caulinodansが如何にして酸素を克服しているのかという点に着目し、「新規内膜タンパク質(OcmAと暫定的に命名)が細胞内の酸素濃度を低下させる機構を担っている」という仮説を提起し、それを証明することを目的としている。 本研究ではまず、細菌細胞内の酸素濃度測定技術の開発を研究の第一段階としており、ニードル式マイクロ酸素濃度計を用た直接的測定法と、低酸素プローブとして汎用されているpimonidazole-HClを用いた分子生物学的測定法を検討していた。しかし、本研究における細菌内の酸素濃度測定への応用は本年度中には確立できなかった。 研究を進める最中に、A. caulinodans のocmA遺伝子破壊株は野生型株に比べて多量の菌体外多糖を生産することが判明し、OcmAは菌体外多糖生産に関与し、菌体外多糖のバリアで菌体内酸素濃度を制御している可能性が浮上してきた。また、Lonプロテアーゼをコードするlon遺伝子破壊株の菌体外多糖生産能が野生型株に比べて劣ることが判明し、lon遺伝子が細胞内酸素濃度低下機構を担う可能性がある遺伝子として候補に挙がった。 また、OcmAはN末端領域に3回膜貫通領域を持つ内膜タンパク質であることが、in silico解析により予想されている。OcmAのC末端側のアミノ酸配列を基にした抗ペプチド抗体を用いたウェスタン解析を行ったところ、確かに内膜画分にバンドが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
到達目標としては、(1) 細胞内酸素濃度測定技術の開発 (2)OcmAの機能・構造解析 (3)他の細胞内酸素低下機構の探索、を申請書に記載した。まず、(1)の課題である細菌細胞内の酸素濃度測定技術の開発が遅れている。本研究で採用した2つの測定方法は高等真核生物に至適化されており、微小な細菌への応用が未だ困難な状況であることが原因である。次に(2)の課題であるが、OcmAが菌体外多糖の生産に関与することを見いだし、内膜タンパク質であることを証明できたので、おおむね順調である。(3)の課題であるが、lon遺伝子が菌体外多糖生産に関与していることが判明し、細胞内酸素濃度の制御に関与している可能性が浮上してきたことから、おおむね順調と言える。 (1)の課題が遅れているとは言えども、OcmAの機能の一部を見いだせたことから、総じておおむね順調と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
細胞内酸素濃度の測定技術の開発に関しては、ニードル式マイクロ酸素濃度計を用た直接的測定法は不適切であると考えられたので、低酸素プローブを用いた分子生物学的測定法での確立に集中することとした。 また、菌体外多糖の生産が細胞内酸素濃度の低下に関与することを集中的に証明するべきであると考え、ocmA遺伝子破壊株およびlon遺伝子破壊株の詳細な比較研究を進めていくこととした。特に、LonプロテアーゼとOcmAタンパク質が如何にして菌体外多糖生産を制御しているのか、その二者が如何にクロストークしているのかを分子レベルで調査する。 本年度から、OcmA相互作用タンパク質の探索を行う予定で有るが、OcmAと相互作用するタンパク質を探索するために、共免疫沈降を行い、共沈降物の同定を質量分析計により行う。ただし、膜に埋め込まれた状態でのOcmAのままでは共免疫沈降に供するのは困難なため、N末端側の膜貫通領域を欠損したOcmAを作製し、用いることとする。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初購入予定であったニードル式マイクロ酸素濃度計をレンタルで使用することが出来たため、研究費の余剰が生じた。上述の通り、細胞内酸素濃度の測定技術の開発に関しては、ニードル式マイクロ酸素濃度計を用た直接的測定法は不適切であると考えられたので、本機材の購入を本年度に行うことはない。しかし、比較的試薬等のコストがかかる分子生物学的測定方法に集中するため、余剰予算はこちらに配分していく予定である。 また、菌体外多糖の生産は菌体凝集にも関与している可能性があり、菌体凝集により細胞内酸素濃度の低下が制御されている可能性もある。そこで、顕微鏡観察の機材を多少拡充する必要があると考えている。 翌年度に請求する研究費はおおむコストのかかる分子生物学的解析、特にOcmAと相互作用するタンパク質を探索に充当していく予定である。
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