研究課題/領域番号 |
23780062
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
齋藤 勝晴 信州大学, 農学部, 准教授 (40444244)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 菌根 / リン酸 / 共生 / 酸性ホスファターゼ / ポリリン酸 |
研究概要 |
本研究では、菌根機能を評価する有効な指標を見出すため、リン酸輸送に関わる植物と菌根菌の遺伝子・タンパク質・生体分子を解析し、菌根のリン酸輸送の分子メカニズムを明らかにすることを目的とした。 課題1では、菌根菌のポリリン酸分解酵素と合成酵素の遺伝子を同定し機能解析することで、菌糸内でのポリリン酸代謝を明らかにすることを目的とした。アーバスキュラー菌根菌Glomus intraradicesのゲノム情報を利用し、酵母VTC4と相同性の高いGiVTC4をクローニングした。VTC4は膜タンパク質であることから、ポリリン酸合成活性を有すると考えられる細胞質ドメインをクローニングし、大腸菌タンパク質発現系を用いてGiVTC4*タンパク質を精製した。GiVTC4*を抗原としてウサギ抗GiVTC4*抗体を作製し、ウエスタンブロット解析で抗原と反応することを確認した。 課題2では、ミヤコグサの菌根特異的酸性ホスファターゼLjPAP3のノックダウン系統を作製し、菌根菌のポリリン酸局在や代謝に及ぼすLjPAP3の影響を明らかにすることを目的とした。RNAi法によりLjPAP3遺伝子の発現を抑制させるため、Agrobacterium rhizogenesを用いてミヤコグサにヘアピンRNA発現遺伝子を導入した。形質転換個体のLjPAP3遺伝子の発現量を解析したところ、野生型に比べ約1/10程度に発現が抑制されたており、LjPAP3機能解析に有用な系統を得ることができた。このLjPAP3発現抑制系統に菌根菌を接種しポリリン酸局在を解析したところ、樹枝状体のファインブランチにポリリン酸が蓄積していることが明らかとなった。ミヤコグサLjPAP3の機能を解析するため、 酵母Pichia pastorisでLjPAP3を発現させ精製することができたが、精製量が微量であり発現と精製法を検討する必要があった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
[課題1]菌根菌のポリリン酸分解・合成酵素の同定と機能解析当初の予定通り、菌根菌のポリリン酸合成酵素GiVTC4のクローニングとタンパク質精製、抗体作製ができた。さらに抗体の反応性を確認することもできた。一方で、菌根菌のポリリン酸分解酵素PPXのクローニングについては、菌根菌のゲノム情報が限られることからクローニングには至らなかった。[課題2]ミヤコグサ酸性ホスファターゼのポリリン酸代謝当初の予定通り、ミヤコグサの菌根特異的酸性ホスファターゼLjPAP3のRNAiノックダウン系統を作製し、菌根菌のポリリン酸局在を解析することができた。また、酵母Pichia pastorisタンパク質発現系でのLjPAP3精製とLjPAP3のペプチド抗体の作製も予定通りに進んだが、精製量に課題があった。さらに抗LjPAP3抗体の反応性を確認することもできた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はポリリン酸合成に関わる菌根菌GiVTC4とポリリン酸の分解に関わるミヤコグサLjPAP3の抗体を作製することができたため、今後は当初の計画通りにそれぞれのタンパク質の局在を解析するために免疫電顕を行い、タンパク質が機能する部位を特定する。また、GiVTC4とLjPAP3を精製し、生化学的特性を調べることでポリリン酸代謝に対する機能を明らかにする。ポリリン酸分解に関わるPPXについてはゲノム情報がさらに公開されたところでクローニングを行う予定である。 LjPAP3発現抑制系統が確立したことから、今後はLjPAP3の収量やリン酸吸収を野生型と比較し、LjPAP3の個体に対する影響を明らかにする。また、菌根菌接種したLjPAP3発現抑制系統のポリリン酸局在を詳細に解析することで、LjPAP3のポリリン酸代謝に及ぼす影響を明らかにする。ポリリン酸の局在を詳細に解析するためには、これまで使用してきたポリリン酸検出法では感度が低いため、サンプルの固定法や反応法あるいは接種菌種などを検討する必要がある。
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次年度の研究費の使用計画 |
[課題1]菌根菌のポリリン酸分解の同定と機能解析 本年度作製したGiVTC 4の抗体を用いて、Glomus intraradices菌糸内のGiVTC4の局在を免疫電顕で解析する。また、大腸菌のタンパク質発現系を用いて精製したGiVTC4*のポリリン酸合成活性を生化学的に調査する。[課題2]ミヤコグサ酸性ホスファターゼのポリリン酸代謝 ミヤコグサLjPAP3のRNAiノックダウン系統を用いて、ポリリン酸ラベリング法を用いて菌根のポリリン酸局在を詳細に解析する。接種する菌根菌にはリン酸供給能力の異なるGlomus intraradicesとGigaspora margaritaの2種類を用いる。菌根材料の固定として高圧凍結固定法と化学固定法を検討する。菌根切片をポリリン酸結合タンパク質溶液中でインキュベートし、次にポリリン酸結合タンパク質を認識する抗体で免疫染色することでポリリン酸の局在を可視化する。本年度は酵母Pichia pastorisで発現・精製したLjPAP3の量が少なかったことから、発現スケールを増大させるとともに、損失の少ない精製過程を検討し、LjPAP3の生化学的特性を明らかにする。また、LjPAP3の抗体を用いて免疫電顕で局在解析を行う。今年度使用予定であった電顕試料作製用試薬の納期が遅れており、次年度に52,469円を繰越した。繰越金については予定通り試料作製試薬を購入しポリリン酸局在解析を行う。
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