研究課題
共生窒素固定において、根粒内の植物細胞(感染細胞と非感染細胞)間及び植物細胞と根粒菌間での低分子化合物の輸送は、共生窒素固定の根幹であるが、それを司る輸送体本体に関してはほとんど未解明である。本研究ではレーザーマイクロダイセクション法とマイクロアレイにより見出された、根粒内で細胞層特異的に発現する2種のMATE(Multidrug and toxic compound extrusion)型輸送体に着目し、それらの発現特性や輸送活性、生理的役割を明らかにすることを目的とした。 LjMATE1、LjMATE2、及び研究の過程で新たに見出されたLjMATE3について、全長cDNAをpENTRベクターにクローニングした。LjMATE1、LjMATE2、LjMATE3を、Gateway systemを用いて効率的に、種々のベクターに組み込んだ。また、発現抑制株作出のため、MATE蛋白質の保存性が低い領域を用いてそれぞれに特異的なRNAi用ベクターを構築した。さらにゲノム情報からLjMATE1、LjMATE2、LjMATE3のプロモーター領域をクローニングし、これらプロモーターの下流でGUS遺伝子を発現するコンストラクトを作成した。 LjMATE1、LjMATE2、LjMATE3の生理機能を明らかにするために、Agrobacterium tumefaciens (EHA101)を用いて、ミヤコグサの形質転換を行い、発現抑制体を複数クローン作出中である。さらに、局在膜の同定や免疫染色による組織発現解析に向けて、ペプチド抗体を作成中である。 また、発現解析の結果、LjMATE1、LjMATE3は根粒で、LjMATE2は根粒よりも茎で発現が高いことが認められた。さらにLjMATE1はクエン酸を輸送すること、RNAi形質転換体で窒素欠乏下での生育が低下することも明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
本研究では根粒で機能するMATE型輸送体の生理機能解明を目的としている。初年度は、LjMATE1、ljMATE2、LjMATE3の3分子種に対して、各種コンストラクトの作製やミヤコグサの形質転換に着手した。研究が最も進展したLjAMTE1に関しては、発現特性や輸送基質、RNAi形質転換体での表現型などが明らかとなり、論文を投稿できるデータが揃ったと考えられる。LjMATE2は予想とは異なり、根粒とともに茎でおもに発現する輸送体であることが明らかになったが、根粒での機能と併せて茎における機能を解析することで本分子種の生理的役割を明らかにできるものと期待される。LjMATE3は新たに見出された分子種であるが、根粒での発現が高く、根粒における生理的役割の解明が期待される。初年度は申請書のほぼ計画の計画通りに研究を行うことができたと考えている。その過程で、形質転換の着手、窒素固定活性測定法の立ち上げ等、次年度の解析に向けた準備が整っており、全体的に概ね順調と考えている。
LjMATE1に関しては論文化を目指す。LjMATE2及びLjMATE3に関しては以下の計画で研究を進める。 根粒細胞内での膜局在性を明らかにするために、自身のプロモーターの下流で蛍光蛋白質との融合蛋白質を発現するミヤコグサ形質転換体(LjMATE2promoter::LjMATE2-GFPなど)を用い、根粒細胞内での膜局在を解析する。また、別の蛍光蛋白質を発現する根粒菌を感染させ、根粒形成過程での根粒菌とLjMATE2、LjMATE3の時間的、空間的な関係を共焦点顕微鏡により観察する。 細胞膜局在、液胞膜局在、ペリバクテロイド膜局在を明らかにすることは、生理的役割を明らかにする上で必須である。そのため、ペプチド抗体により免疫組織化学法により局在膜を決定する。 LjMATE2、LjMATE3の過剰発現体、発現抑制体にDsREDを発現する根粒菌を感染させ、根粒形成過程を詳細に解析する。さらに、成熟根粒内のバクテロイドの形態を観察するとともに、窒素固定能をアセチレン還元活性により評価する。LjMATE2、LjMATE3にフラボノイドの輸送活性が認められた場合、フラボノイドのオーキシン輸送阻害としての効果と、抗菌成分としての効果の二つの側面から、過剰発現体と発現抑制体の評価を行う。前者には、オーキシン応答性プロモーターDR5の下流でeYFPを発現するコンストラクトをAgrobacterium rhizogenesに導入し、毛状根形質転換法により形質転換体の根粒細胞内でのオーキシンの動態を野生型と比較する。後者には、DsREDを発現する根粒菌を感染させて根粒内を観察する他、病原菌に対する防御機構への影響を評価するため、ミヤコグサに感染する根腐れ病菌(Fusarium oxysporum)を感染させ、病原応答を表現型と抵抗性遺伝子応答の両面から評価する。
初年度の後半にペプチド抗体を発注したため、納品、支払いが今年度となり約12万円の研究費が今年度に持ち越された。 今年度は、物品費は一般的な分子生物学的試薬、生化学的試薬の購入が中心となる。特に輸送解析に用いるRIラベル化合物の購入が大きなウエイトを占める。旅費は、成果発表のため日本植物生理学会での発表と、日本で開催されるPlant Membrane Biologyでの発表のために用いる予定である。人件費・謝金は大量の形質転換体の維持、管理やルーチンワーク補助のため、研究補助員を4か月程度(約20万円)雇用するために使用する。その他、論文発表に向けて英文校閲費用、出版費用などの支払いを予定している。
すべて 2012 2011 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件) 図書 (1件) 備考 (1件)
Mol. Plant Microbe Interact.
巻: in press ページ: in press
http://www.rish.kyoto-u.ac.jp/W/LPGE/index.html