本研究ではコメの亜鉛強化のための分子基盤を確立するために、イネの亜鉛輸送体の機能解析を行った。CDF (cation diffusion facilitator)ファミリーは亜鉛を含め様々な二価重金属イオンとプロトンとの対向輸送を担うタンパク質である。前年度に同ファミリーから選抜したOsMTP7の亜鉛の輸送活性を酵母発現系により解析した。その結果、OsMTP7の発現は酵母変異株(Δcot1zrc1)の亜鉛感受性を相補すると共に、亜鉛濃度を5倍以上に高めた。次に、植物におけるOsMTP7欠損の影響を調べるために、RNAiラインを作成し亜鉛の集積性を調べた。しかし、亜鉛及びその他の必須重金属元素に影響は見られなかった。また、ユビキチンプロモーターによる過剰発現株を作成し検討したが、同様に変化は見られなかった。一方、過剰発現株において有害元素であるCdの濃度が低下した。これらの結果から、OsMTP7は亜鉛よりも同族元素であるCdに対して親和性が高く、植物体内では主にCdの輸送を行うことが示唆された。 また、イネ変異株を用いたスクリーニングにより、CDFファミリーからOsMTP8が亜鉛輸送に関与する候補遺伝子として選抜された。mtp8株の亜鉛濃度は地上部で減少し、逆に根で上昇した。一方、mtp8株では根のマンガン濃度の低下が認められた。GFP融合タンパク質による一過性発現解析により、OsMTP8の細胞膜への局在が示唆された。さらに、ウエスタンブロッティングにより亜鉛及びマンガン過剰によるOsMTP8蓄積への影響を解析したところ、同タンパク質は亜鉛過剰により減少し、マンガン過剰により増加した。これらの結果は、OsMTP8が亜鉛とマンガンを細胞外に排出することにより、両金属の細胞内濃度バランスの維持に関わっていることを示唆している。
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