研究課題/領域番号 |
23780072
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
吹谷 智 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (10370157)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ビフィズス菌 / 応用微生物 / R-IVET / プロモーター / 遺伝子発現 / 部位特異的組換え |
研究概要 |
平成23年度はR-IVET法の確立に向けた予備検討とビフィズス菌染色体への遺伝子導入法の確立を行った.1. 野生株Bifidobacterium longum 105-A株のマウス腸内での生存試験:野生株 B. longum 105-Aがマウス腸内で生存可能であるかを明らかにするため,BALB/cマウスへ105-A株を経口投与し,糞便中の105-A株の生菌数を経時的にモニターした.10の 9乗cfuの105-A株を経口投与したところ,105-A株は投与後6時間目に最も多く糞便中に検出され,その後24時間目まで糞便中に継続して検出された.この結果から,105-A株はマウス腸内で死滅せずに腸内を通過できることが明らかとなった.2. 相同組換えによるビフィズス菌染色体上への遺伝子導入法の確立:R-IVET法の確立に向けて,親株であるB. longum 105-A株の染色体上へloxP-スペクチノマイシン耐性遺伝子 (SpR)-loxP配列を導入する必要がある.そのため,二重相同組換え法による染色体上への遺伝子導入法を検討した.実際に2種類のベクターを用いて,染色体上の遺伝子に欠損変異を導入できたことから,105-A株の染色体上への遺伝子導入が可能であることが示された.3. 新たな薬剤耐性マーカーを持つシャトルベクターの構築と評価:R-IVET法の確立に必要なCreリコンビナーゼ発現プラスミドを構築するためには,前述のSpR以外の薬剤耐性遺伝子が選択マーカーとして必要である.そのため,クロラムフェニコール耐性遺伝子 (CmR) およびエリスロマイシン耐性遺伝子 (EmR) を保持するシャトルベクター2種を新たに構築した.構築したベクターを105-A株に導入し,薬剤耐性を評価したところ,どちらの薬剤耐性遺伝子も105-A株にそれぞれの薬剤に対する耐性を付与できることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究の推移としては,おおむね順調に推移していると考えている.本研究では交付申請書の「研究目的」に記載した「R-IVET法の技術構築」の項目が最も重要な研究項目であるが,この技術構築の成否を分けると言ってもよい重要な基盤的技術である,ビフィズス菌染色体への遺伝子導入技術を平成23年度に確立することが出来た.二重相同組換え法を用いたこの遺伝子導入技術は,ビフィズス菌においてこれまで確立されていなかった技術であり,本研究によってこの技術の確立が達成できたことは大きな前進であると考える.また,親株として使用するB. longum 105-A株のマウス腸内での生存の確認,新たな薬剤耐性遺伝子としてCmRおよびEmRが使用可能であることを明らかにするなど,R-IVET法の技術構築において懸念されていた問題点を,平成23年度に行った研究により解決することが出来ている.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は,R-IVET法の確立と腸内特異的に発現する遺伝子の同定を目指して以下の実験を行う.1) loxP-SpR-loxP配列のビフィズス菌染色体への導入:昨年度に構築したEm耐性遺伝子を持つプラスミドをベースに,loxP-SpR-loxP配列の両端にビフィズス菌染色体の領域をクローニングした染色体導入用ベクターを構築する.このベクターと確立した遺伝子導入法を用いて,loxP-SpR-loxP配列を親株であるB. longum 105-A株の染色体に導入する.2) Creリコンビナーゼ発現プラスミドの構築:Cm耐性遺伝子を持つプラスミドをベースに,Creリコンビナーゼ発現プラスミドを構築する.Cre ORFの上流にB. longum 105-A株のランダムな染色体DNA断片を挿入したライブラリーを作成し,1)で構築したloxP-SpR-loxP配列導入株に導入する.3) 腸内特異的発現遺伝子の同定:作成されたライブラリーの株を,マウスへ経口投与し,糞便から回収した投与株のSp耐性を調べる.これにより,Sp耐性を失った株を腸内特異的に発現するプロモーターを保持するクローンとして同定する.クローンに挿入されているDNA断片の塩基配列と,B. longum 105-A株のゲノム情報から,最終的に腸内で特異的に発現する遺伝子を導入する. 研究を遂行する上での課題としては,CmおよびEm耐性遺伝子を持つベクターのビフィズス菌への形質転換効率が低い点があげられる.実際に1)および2)の系を効率よく確立するためには,CmおよびEm耐性遺伝子を持つベクターの形質転換効率を上昇させる必要がある.ゆえに昨年度作成したベクターについても,余分なDNA領域の削除やマーカー遺伝子の改良などの工夫を行う必要を視野に入れている.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度に実施した遺伝子導入用ベクターの作成に使用した分子生物学試薬の購入費用の支払いに使用する.
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