研究課題/領域番号 |
23780074
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小林 肇 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50549269)
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キーワード | バイオカソード / バイオ水素 / バイオメタン / 生電気化学的活性 / 電子放出細菌 |
研究概要 |
前年度に構築した電気化学的メタン生成活性を持つ好熱性バイオカソードに関して詳細な解析を行った。メタン生成バイオカソードの電気化学的特性をCyclic Voltammetry法を用いて解析した。メタン生成バイオカソードにおける電気化学的メタン生成反応には、電圧印加培養により集積された微生物系が触媒として強く関わっており、さらに電位に依存して異なる経路で反応が起こっている事が示唆された。 同時に、下水処理場の高温消化汚泥に由来する微生物群を電気化学的培養リアクターに植菌し、嫌気条件下でFed-batch方式の電圧印加培養を繰り返す事で、電気化学的水素生成活性を持つ好熱性バイオカソードの構築に初めて成功した。この水素成バイオカソードにおいて、電流-水素変換効率を計算したところ60%から80%に近い値をとった。金属触媒を用いていない通常の(非生物的)電気化学的な水素生成の電流-水素変換効率が10%近辺であることを考慮すると、バイオカソードによる変換効率は顕著に高いと言える。さらに、Linear Sweep Voltammetryによるバイオカソードの電気化学的特性を解析した。バイオカソードは強い還元活性を示し、電圧印加培養により集積された微生物系が電気化学的水素生成反応に触媒として強く関わっていることが示された。また、プロトンの還元反応が起こるまで電流がほとんど流れなかったことから、水素生成を触媒する微生物(群)がカソード電極から直接電子を受け取ってプロトンを還元する反応機構が示唆された。バイオカソード表面上の微生物群の菌叢解析を行ったところ、これまで電気化学的活性が報告されたことの無い微生物種が主に検出され、これまで電気化学的活性が知られていなかった好熱性微生物が水素生成バイオカソード上で触媒活性を担っている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究の結果、それぞれメタンと水素を電気化学的に生産する2種の好熱性バイオカソードの構築を達成した。さらにそれらバイオカソードのバイオガス生産活性に関わる微生物的また電気化学的な機構を明らかにしつつある。バイオガス生産に関わる遺伝子群の特定には至っていないが、次年度に予定していた電気化学的特性解析の一部をすでに行っている。
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今後の研究の推進方策 |
「2種のバイオカソードの電気化学的特性と微生物系の環境応答解析」:2種類のバイオカソードのガス生産活性、電気化学的特性、触媒微生物系の環境条件(電圧、栄養、基質濃度、培養条件等)に対する応答を解析し、ガス生産効率が向上する環境条件を決定し「バイオカソードの高効率化」達成への道標とする。異なる環境条件下におけるバイオカソードのガス生産活性と電気化学的特性(ボルタメトリー法)を測定する。 「バイオカソードの高効率化手法の確立」:これまでの解析から得られた知見を統合し、2種類のバイオカソードのガス生産の効率向上化手法を検討、実験実証し「次世代バイオカソードの高効率化」を達成する。環境応答の解析結果を基に、不足している栄養素、培養条件等を検討する。また、微生物群集構造の比較から異なる代謝活性を持つ微生物種の添加、またリアクターやカソードのデザインや材料等の工学的改良により次世代バイオカソード高効率化を達成、発展研究で他の関連技術と融合する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次世代バイオカソード上の微生物系から、RNAを抽出、mRNAを純化、逆転写PCRにより発現遺伝子ライブラリーを構築、塩基配列をPyrosequencing法で決定、発現遺伝子を網羅的に解析し、環境応答を解析する。得られた知見を基にリアクターやカソードのデザイン、材料等を工学的に改良し、バイオカソードの高効率化を達成する。このPyrosequencingの委託サービス利用と、リアクターデザインの改良が主要な研究費の使用である。
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