研究課題/領域番号 |
23780078
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
本田 孝祐 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90403162)
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キーワード | 合成代謝工学 / タンパク質工学 / 好熱菌 / ピルビン酸酸化 / ピルビン酸デヒドロゲナーゼ |
研究概要 |
研究代表者は、モジュール化した耐熱性酵素を任意に組み合わせ、化学品生産に特化した人工代謝経路をin vitroで再構築する「合成代謝工学」の確立を目指した研究を進めている。このうち、すでに別プロジェクトにおいて構築済みの人工解糖系の最終産物であるピルビン酸を、生体反応で様々な代謝産物への合成中間体となるアセチルCoA生産へと変換するための人工代謝経路を構築することが、本研究課題の主たる目的である。 前年度までに、酵素モジュールとして利用可能な耐熱性ピルビン酸脱炭酸酵素(PDC)の取得の取得に成功している。当該年度はアセチルCoA生産経路構築に必要な他の酵素モジュールを完備し、目的経路を完成させることを目的とした。 Acetobacter属細菌(最適生育温度30℃)が産生するPDCに、好熱菌(最適生育温度70℃)由来CoA-acylating aldehyde dehydrogenase (AlDH)をカップリングさせた「バイパス型」ピルビン酸脱炭酸経路を構築するとともに、本経路を通じて対ピルビン酸収率75% (mol/mol)以上の効率で、アセチルCoAへの変換が可能であることを実証した。 また、本バイパス型経路を用いた有用物質生産の実証試験として、耐熱性グルタミン酸デヒドロゲナーゼおよびグルタミン酸アセチルトランスフェラーゼをカップリングさせた人工経路をデザインした。これにより、ピルビン酸およびケトグルタル酸から化粧品材料などとして付加価値を有するアセチルグルタミン酸へのワンポットでの合成が可能となる。当該年度はT. thermophilusおよびThermotoga martimaの2種類の好熱菌より各酵素遺伝子の単離と大腸菌内での大量発現、ならびに組換え酵素の特性評価を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、PDCによる触媒反応の生産物であるアセトアルデヒドからアセチルCoAへの変換経路として、アルデヒドデヒドロゲナーゼによるアセトアルデヒドから酢酸への酸化反応、およびアシルCoAシンターゼによるATP依存的な酢酸とCoAの縮合反応の2ステップからなる人工経路を想定していた。1段階目のステップを触媒するアルデヒドデヒドロゲナーゼの分離源としてT. thermophilusを選択し、同株由来の酵素の特性評価を行った結果、本酵素がCoA存在下でCoAアシル化活性を伴ったアセトアルデヒドの酸化反応を触媒することが明らかとなった。この発見により、反応経路の簡略化のみならずATPに依存しない人工経路をデザインすることが可能となった。結果的に最終年度に実施予定であったバイパス型経路を用いた有用物質生産に関する研究を前倒しで開始することとなった。 一方、進化工学的手法によるPDCのさらなる耐熱化についても検討を開始しており、現在までにスクリーニングのためのハイスループットな評価系を確立するに至っている。
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今後の研究の推進方策 |
バイパス型ピルビン酸脱炭酸経路にさらに2段階の酵素反応(グルタミン酸デヒドロゲナーゼおよびグルタミン酸アセチルトランスフェラーゼ)をインテグレートさせたアセチルグルタミン酸生産のための人工代謝経路を構築する。 一方、本経路を構成する酵素群のうち、PDCは中温性細菌に由来することからも理解できるとおり、他の酵素に比べて熱安定性に劣り、長時間の利用に不向きである。より効率的な物質生産プロセスの構築に向け、進化工学的手法に基づき本酵素の耐熱性を向上させることがもう一つの実施課題となる。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記のとおり、T. thermophilus由来CoAアシル化アルデヒドデヒドロゲナーゼの発見により、構築すべき人工経路のショートカットが可能となったため、研究は順調に進捗している。最終年度では本課題で得られた成果のフィージビリティースタディーとして、構築されたバイパス型経路を利用した有用物質生産に取り組む。高効率な生産システム構築に向けた反応条件の最適化と検証を行うにあたり、反応液調製に用いる試薬、組換え大腸菌の培養に必要な試薬等のスケールもこれまでに比べ格段に大きくなる。 また進化工学的手法によるPDCの耐熱化研究ではDNA修飾酵素類などの必要性が増す。ただし、いずれについても当初の見込み金額で十分に実施可能な範囲である。
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