本研究課題は、好熱菌(55℃以上の高温環境下でも生育可能な微生物)由来の耐熱性酵素を試験管内で組み合わせ、有用物質生産に利用可能な人工代謝経路を構築する新規技術の確立を目指し実施されたものである。解糖系の最終産物であるピルビン酸から、多くの代謝経路のハブとなる重要な中間体であるアセチルCoAを生成する酸化的脱炭酸反応に着目し、本反応を試験管内で再現するとともに、これを用いた有用物質生産に取り組んだ。前年度までに、2種類の耐熱性酵素のカップリングにより目的反応であるピルビン酸からアセチルCoAへの変換反応を試験管内で実現することに成功していたが、最終年度はこれにさらに2種類の酵素反応を組み合わせることで、ピルビン酸とグルタミン酸を原料に収率55% (mol/mol)でN-アセチルグルタミン酸を生産することに成功した。 さらに、別プロジェクトで並行して構築を進めてきた人工代謝経路に上記の経路を組み合わせることで、次世代型バイオ燃料として着目される1-ブタノール生産のための新規経路構築に応用することにも成功した。 一方、同様の方法論に基づき、有機溶媒中での酵素反応による脂溶性物質生産プロセスの構築をスピンアウト課題として設定した。これは好熱菌由来の酵素タンパク質が熱だけでなく有機溶媒などによるケミカルストレスに対しても優れた安定性を示すことに着目したものである。研究代表者らのグループにより基盤研究が進められてきた疎水性細菌Rhodococcus opacus内で好熱菌由来ene reductaseおよびalcohol dehydrogenaseを共発現させ、これを基質を溶解させた有機溶媒内に投入し、酵素反応を実施した。この結果、カロテノイド類などの合成中間体として利用される(6R)-レボジオンを約600 mMの濃度で蓄積させることに成功した。 これらの成果を、学会発表のほか、国際科学誌上で報告した。
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