研究課題/領域番号 |
23780087
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研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
大坪 和香子 東北学院大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (00598203)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 亜酸化窒素 / 堆肥化プロセス / 脱窒 / 群集構造解析 |
研究概要 |
養豚場由来廃棄物を用い、単純野積み法(A法)と高温前処理を行う方法(B法)により堆肥化実験を行った。A法では堆肥化プロセスの初期(2~4週目)、B法では後期(5~7週目)と、N2O発生時期が異なっていたことから、温度、pH、含水率、無機窒素化合物量を比較したところ、B法では堆肥化初期に高温発酵状態(60~70℃)に維持されていたことが、N2O発生の遅れに影響していると考えられた。アンモニア酸化酵素遺伝子(amoA)の定量的リアルタイムPCRの結果、A法による堆肥化プロセスでは初期試料にamoAが検出されたのに対し、B法では4週目以前の試料からはamoAが検出されなかった。このことは、脱窒基質である亜硝酸を生成するアンモニア酸化細菌が、A法では初期、B法では高温発酵終了後に増殖を開始したことを示している。以上の結果から、堆肥化プロセスにおけるN2O発生はアンモニア酸化細菌の増殖とそれに伴う脱窒基質の生成に依存することを明らかにした。また、亜硝酸還元酵素遺伝子(nirK、nirS)の定量および多様性解析の結果から、各堆肥化法における脱窒細菌の群集構造は堆肥化の進行に従って大きく変化しており、最終的に土着のnirK型脱窒細菌が優勢化することが明らかになった。これらの細菌がN2O発生パターンに与える影響を明らかにすることは今後の課題である。また、堆肥試料からブロモチモールブルー脱窒培地を用いて100菌株の脱窒細菌を単離し、16S rRNA遺伝子による同定を行った。6種が優勢的に単離され、うち4種がベータプロテオバクテリア綱であった。堆肥試料中のN2O還元酵素遺伝子のシーケンス解析においても、ベータプロテオバクテリア綱が堆肥化プロセス中~後期で優勢化することが示されたことから、本グループの脱窒細菌が堆肥化プロセスにおけるN2O発生パターンに関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)の沖縄における堆肥化実験が、震災の影響により実施が大幅に延期されたため、当年度は前年度までに得られた堆肥試料の他に、現地の研究協力者に依頼し提供された測定データおよび試料を用いて研究を行い、確認および追加実験を年度末に現地で行うこととなった。このため、実施した実験の順番が計画とは異なるが、申請書において平成23年度に計画していた(1)畜産廃棄物を利用した堆肥化実験、(2)堆肥試料の物理化学的諸性質の測定、(3)脱窒細菌群集の定量および多様性解析、(4)脱窒細菌の単離スクリーニングの4点を年度内に全て実施し、研究成果を国内学会(第27回日本微生物生態学会大会、日本農芸化学会2012年度大会)、国際学会(Enzymes in the Environment Conference 2011)および国内学術誌(土木学会論文集G)において発表することができたため、当初の計画通りに進展していると考えている。さらに、国際学術誌への投稿も予定している。平成24年度に予定している研究計画については、単離および細菌種を同定した6菌株について(5)の亜酸化窒素還元に関与する脱窒特性の解析を現在行っており、今年度中に成果が得られると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に堆肥試料から単離・同定した脱窒細菌について、(1)好気・微好気条件下における硝酸、亜硝酸イオンおよびN2Oの減少に伴う増殖、(2)N2OおよびN2の発生量、(3)亜硝酸還元酵素遺伝子(nirK、nirS)およびN2O還元酵素遺伝子(nosZ)の発現を調べることにより、各菌株の脱窒特性を明らかにする。その中から、外因性のN2Oを還元する能力のある菌株、微好気および好気条件下においてもN2Oを発生させずに脱窒を行う菌株を選択し、基質の種類や濃度と増殖速度の関係および酸素濃度と脱窒速度の関係を明らかにする。上記のようにして得られた菌株について、好気脱窒細菌Pseudomonas stutzeri TR2株をその生育特性およびN2O還元能を比較し、TR2株を用いて現在行っているベンチスケールの脱窒リアクターを用いたN2O除去実験にも採用し、N2O除去効果が見られるかどうかを確認する。またリアクター内での生残性を維持できるかを当菌株の16S rRNA遺伝子を標的とした定量的リアルタイムPCRにより検討し、亜酸化窒素削減技術への応用が可能であるかの知見を得る。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は培養実験およびヘッドスペースガスの測定が主要な実験内容になるため、密封培養用のHungate試験管および分離カラムや標準ガスなどのガスクロマトグラフィー関連用品を消耗品として購入する予定である。引き続き16S rRNA遺伝子や脱窒関連遺伝子を標的とした定量やシーケンス解析も行うことから、核酸抽出キット、酵素およびバッファー等溶液、反応チューブおよびキャピラリー等の分子生物学的実験に関する消耗品も引き続き主な消耗品項目となる。旅費については、8月に国際学会(The 14th International Symposium on Microbial Ecology, ISME14)、9月に国内学会(第28回日本微生物生態学会大会、JSME 2012)への参加への使用を予定している。その他の使途として、国際誌への論文投稿や文献の閲覧に必要となる諸費用を予定している。
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