本研究では、養豚場の排水処理プロセスにおいて生じる固形廃棄物(搾汁後の固体残渣および排水処理からの余剰汚泥)を材料とした堆肥化プロセスにおいて、中温期に亜酸化窒素(N2O)が発生するメカニズムを、堆肥中の無機窒素化合物変換に関与する微生物群集の動態の変化を明らかにすることにより解明した。 100℃の高温前処理(HTPRT)を行った場合と行わなかった場合とでN2O発生を比較したところ、両手法のた堆肥山において、50℃以下の中温期にN2O発生が見られた。一方、高温発酵期と堆肥成熟期にはN2O発生が見られなかった。堆肥中の無機窒素化合物量の変化を比較したところ、両手法において、N2O発生の直前にアンモニウム態窒素量の顕著な減少が見られ、同時期にアンモニア酸化細菌の保有するアンモニアモノオキシゲナーゼ遺伝子(amoA)が検出されたことから、堆肥からのN2O発生の発生時期は、堆肥中のアンモニア酸化細菌の出現時期に依存することが明らかとなった。 また、HTPRT法を用いた堆肥山ではN2O発生時期の遅延とN2O発生量の低下が認められたことから、本堆肥化手法がN2O発生抑制に効果があることが示唆されたが、この要因の一つとして、HTPRT法を用いた場合に、N2O還元ポテンシャルを有する脱窒細菌の割合が高くなることが、N2O還元酵素遺伝子(nosZ)の定量PCR解析により示された。さらに、amoAおよびnosZの系統解析から、HTPRT法を用いない堆肥中のアンモニア酸化細菌は養豚場の固形廃棄物由来の細菌が優勢化していたのに対し、脱窒細菌はHTPRTを行った場合と同様に土着細菌が優勢化していた。 また、培養依存的および非依存的手法による脱窒細菌の群集構造解析から、堆肥中で優勢化する脱窒細菌の多くがベータプロテオバクテリア綱に属し、酸素存在下においても脱窒を行うことが可能であることが示唆された。
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