研究課題/領域番号 |
23780089
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
小松 護 北里大学, 大学院感染制御科学府, 助教 (40414057)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | Streptomyces avermitilis / Cre/loxP / genome / secondary metabolism / actinophage / synthetic biology |
研究概要 |
抗寄生虫薬であるavermectinの工業生産菌であるStreptomyces avermitilisの染色体大規模欠失株(SUKA)は、種々の異種(微)生物由来の二次代謝産物生産のための汎用宿主として有用であることをこれまでに示した。さらに、SUKAを宿主とした新たな物質生産系を構築するため、5種の異なるアクチノファージの溶原化因子(attP-int)を保持する染色体組込み型ベクターと部位特異的組換え機構であるCre/loxPシステムを組み合わせることにより、5種の染色体組込み型ベクターを同時に染色体上へ導入可能なマーカレス多重遺伝子導入法の確立を行う。これにより、数種の異なる、あるいは類似の二次代謝産物生合成遺伝子の同時導入による新規有用物質生産の為の基盤技術を構築する。当該年度においては、マーカレス多重遺伝子導入法の確立を行った。 組換え後に、不活性型配列を生じる変異型loxPで挟み込んだ薬剤耐性遺伝子のカセットを保持するプラスミドを鋳型として、PCRによってカセット部分を特異的に増幅した。この時、増幅されるカセットの両端に、染色体組込み型ベクター上の42 bpの相同配列(標的とする導入領域)を付加したプライマーを用いた。カセットの増幅後、λREDシステムを用いた遺伝子組換えシステムを用い、5種の染色体組込み型ベクター上に上記の薬剤耐性遺伝子カセットを導入した。ベクター作成後、5種のベクターをそれぞれ段階的にS. avermitilisにプロトプラスト形質転換法により導入した。各導入段階において、Cre発現ベクターを導入し、薬剤耐性遺伝子の除去を行った。他の染色体組込み型ベクターを順次導入し、パルスフィールドゲル電気泳動を行った結果、5種類のベクターが全て染色体の互いに異なる特異的部位に正確に組込まれていることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画において当該年度は5 種のアクチノファージ由来の染色体組込み型ベクターと部位特異的組換え機構であるCre/loxP システムを組み合わせることにより、5 種の染色体組込み型ベクターを同時に染色体上へ導入可能なマーカレス多重遺伝子導入法を確立した。その結果、5種の染色体組込み型ベクターをマーカレスで同時に導入することが可能になった。次年度計画において、例えば、ある生合成遺伝子群の内の一部を異なる類似の生合成過程を有する化合物の生合成遺伝子の一部と入れ替え、本来の生合成経路を変更することによって、非天然型の新規有用物質生産の為の基盤技術を構築することを計画した。これにより、新たな医薬品や医薬品リード化合物が生成する可能性があり期待できる。しかしながら、複数の遺伝子(群)を同時に細胞内へ導入する場合には、使用する複数のプラスミドベクターが細胞内で安定的に保持されるなければならない。また、使用可能な薬剤耐性遺伝子の数には限りがあるため、ベクター導入後の薬剤耐性遺伝子の除去が必須である。当該年度において開発した5 種の染色体組込み型ベクターを用いた、新たなマーカレス多重遺伝子導入法は、異なるあるいは類似の生合成経路を有する二次代謝産物生合成遺伝子を簡便かつ同時に汎用宿主の染色体上へ安定に導入することができる技術として、上記の条件を満たしている。つまり、本法を用いることによって、次年度において、新たな物質生産体系構築のための基盤技術の開発を効果的に遂行できると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
大規模染色体欠失株SUKA22に対し、互いに異なる(微)生物由来の生合成遺伝子群を同時に導入することにより、新規非天然型化合物の創製を行う。ここでは、I型ポリケチド合成酵素によって生成する大環状ラクトン化合物について主に検討を行う予定である。S. avermitilisは元来、ポリケチド化合物であるavermectin、oligomycin、filipinを主生産物としている。これまでのSUKA 株における異種微生物由来の二次代謝産物生産の検討においても、ポリケチド化合物であるpladienolide類を顕著に生産することを示している。つまり、ポリケチド化合物について検討することは、生成する化合物の大量蓄積が期待できる。また、Erythromycinやavermectinなど医薬品として重要とされるポリケチド化合物は、母核となる大環状ラクトン骨格を形成するポリケチド合成酵素の他に、水酸化や配糖化など母核構造形成後の修飾に関与するバラエティーに富んだ多くの修飾酵素の遺伝子がクラスターを形成しているため、それら修飾酵素遺伝子を破壊あるいは欠失させ、他の修飾酵素遺伝子を細胞内で共存させることにより、新たな修飾を既存骨格に与えることが可能であると推測している。特に、酸素原子添加酵素であるcytochrome P450は比較的異質特異性が低いものが多く、水酸化をはじめとする構造修飾によって、既存化合物の活性に変化を与える場合が多いため、本酵素遺伝子の導入は有効であると考えられる。また、これまでにSUKAにおいて検討した化合物の生産に関する結果から、S. avermitilisはポリケチド化合物だけではなく、二次代謝産物の供給に重要とされる5 つの一次代謝経路(糖・ポリケチド・シキミ酸・アミノ酸・メバロン酸)に由来する二次代謝産物の生産にも有用であり、それら化合物についても検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は、基本的な遺伝子操作技術並びに有機化合物の抽出と分析によって行うことができる。遺伝子の制限酵素消化やプラスミドベクターへの連結は市販の制限酵素や修飾酵素を用いる必要がある。また、PCR反応に必要な反応試薬も必須である。DNAの分離精製、あるいは巨大な二次代謝生合成遺伝子クラスター等の取り扱いには電気泳動操作が必須であり、高純度電気泳動用アガロースが必需品となる。また、最終的なクローン化した遺伝子は形質転換された大腸菌や放線菌を用いて調製されるため、大腸菌を培養するための培地試薬や陽性クローンの選択のための抗生物質等も必須である。本研究の重要な課題の一つである、S.avermitilisの物質生産性の確認においては、各種培地成分が必要である。高速液体クロマトグラフィーや質量分析、核磁気共鳴装置などによる化合物の分析や分離同定(構造解析)が必要であり、それに伴う、種々の分離・分析カラムや有機溶剤等の試薬等も必須材料である。基本的な分析機器(NMR や各種質量分析機器など)は当研究室では既に整備されており、本申請においては設備備品費は申請せず、大部分の研究経費は上記の研究に必要な消耗品や試薬類等に使用する。また、学会発表における、旅費並びに交通費にも使用する。
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