我々は、抗寄生虫薬であるavermectinの工業生産菌であるStreptomyces avermitilisの染色体大規模欠失株(SUKA)が、種々の異種(微)生物由来の二次代謝産物生産のための汎用宿主として利用できることを報告してきた。前年度において、5種の異なるアクチノファージの溶原化因子(attP-int)を保持する染色体組込み型ベクターと部位特異的組換え機構であるCre/loxPシステムを組み合わせることにより、5種の染色体組込み型ベクターを同時に染色体上へ導入可能なマーカレス多重遺伝子導入法を確立した。これにより、数種の異なる、あるいは類似の二次代謝産物生合成遺伝子の同時導入による新規有用物質生産の為の基盤技術を構築した。 本年度においては、大規模染色体欠失株SUKA22に対し、異なる(微)生物由来の生合成遺伝子群を同時に導入することによる、非天然型化合物の創製を試みた。特に、I型ポリケチド合成酵素の触媒により生成する大環状ラクトン化合物について検討を行った。I型ポリケチド合成酵素の遺伝子サイズは数10kbにもおよび、またそれが複数連結したオペロン構造を取っており、母核構造形成後の修飾に関与する酵素遺伝子を含むその生合成遺伝子クラスター全体のサイズは100 kbにも及ぶ。SUKA株に対し、Erythromycin生合成遺伝子クラスターをはじめとする種々の生合成遺伝子クラスターの導入を試みた結果、S. avermitilisが有する制限系により、巨大サイズの遺伝子クラスターの導入は困難であった。本菌が保有する制限系を回避するため、ゲノム情報より推測された制限酵素遺伝子の破壊を行ったが、巨大なDNA分子を導入することは出来なかった。制限系に関与する因子について現在も特定を試みているが、今後、巨大DNA分子を導入するための新たな遺伝子導入法を確立する事が必要である。
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