研究課題/領域番号 |
23780093
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
高野 英晃 日本大学, 生物資源科学部, 助教 (50385994)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 光センサー / LitR / コエンザイムB12 / カロテノイド / Thermus thermophilus / Pseudomonas putida |
研究概要 |
LitRは広範なバクテリアに保存されている光応答性転写調節蛋白質である。本年度はその光センサーとしての遺伝生化学的な解析を実施した。 Thermus thermophilusが示す光誘導性カロテノイド生産の中心的な制御因子であるLitRの組み換えタンパク質を大腸菌で調製し、生化学的な解析を実施した。LitRはコエンザイムB12(AdoB12)に対して特異的な結合を示したことから、AdoB12がそのリガンドであることが判明した。LitR-AdoB12複合体の標的プロモーターへの結合性を調べたところ、暗条件におけるLitR-AdoB12複合体は標的プロモーターにして特異的な結合を示した。その一方で、明条件下のLitR-AdoB12複合体はそのDNA結合活性を消失していた。一般的にAdoB12は光分解を受けることが知られているので、吸収スペクトルの変化を解析したところ、光照射にともなうLitR-AdoB12の活性消失はAdoB12がOHB12に変換することが原因であることが判明した。また、AdoB12からOHB12への光分解はLitRのダイマーからモノマーへの変換を引き起こした。以上の結果より、LitRはコエンザイムB12を光アンテナ分子とする新規な光センサーであることが明らかになった。 Pseudomonas putidaのLitRホモログの遺伝学的な解析を進めたところ、意外なことにAdoB12はLitRの光受容分子として利用されないことが判明した。そこで、litRに隣接する遺伝子群に着目したところ、LOV型光受容体(sbp)がLitR依存的な光誘導性転写制御に関与することが判明し、新規なタイプの光受容機構の存在が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.LitR蛋白を介した光応答の分子機構の解明 T. thermophilusおよびBacillus megateriumに由来するLitRの大腸菌における大量発現および精製系を確立した。本系により2Lの培養液から約20mgのタンパク質を精製することに成功した。本精製タンパク質を用いて、理研播磨研究所との共同研究により、結晶化の条件検討を進め、微小な結晶を得ることに成功した。現在、マイクロビームライン「BL32XU」を用いた解析を進めており、結晶構造の最終決定には至っていないものの概ね順調に進んでいる。2.Pseudomonas putidaの光応答性レギュロン 遺伝学的な解析は目標通りに達成できた一方で、組み換えタンパク質の生化学的な解析は難航した。すなわち、litRならびにLOV型光センサーの遺伝子破壊株を作製し、レポーターアッセイによる転写解析を行った。それらの結果よりlitRとLOV型光センサーの役割が推定できた。その一方で、組み換えLitRタンパク質は可溶性画分に安定に発現しないという問題点があらわになった。そこで、各種Pseudomonas属細菌のLitRホモログを発現し、その中からP. mendocinaのLitRが可溶性蛋白質として安定に発現することが判明したことから、次年度に大きな進展が望めると考えている。3.光によって誘発される新規な微生物機能の探索 藻類と共生するバクテリアの光応答に着目した実験を進め、複数の光依存的にカロテノイドを生産する細菌およびビタミンB12を合成する菌群を見出した。また、ゲノム情報を活用した光受容体の探索を進め、ChromobacteriumやStreptomycesから新規な光応答遺伝子および光受容体の候補を見出すことに成功し、現在、遺伝生化学的な解析による解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
1.LitR蛋白を介した光応答の分子機構の解明 引き続き理研播磨研究所との共同研究を進め、T. thermophilusおよびBacillus megateriumに由来するLitRの立体構造構造を決定する。それと同時に、ランダム変異によりLitR変異体を遺伝学的な手法により探索し、LitR活性に影響を及ぼすアミノ酸残基を特定する。また、LitR標的プロモーターの種々の変異体を作成し、それを利用したLitR-DNA相互作用の解析を行い、LitRの結合コンセンサス配列を明らかにする。2.Pseudomonas putidaの光応答性レギュロン Pseudomonas mendocinaのLitRは可溶性蛋白質として安定に発現することから、LitRの生化学的な解析は本菌由来の蛋白質を用いて進める。LitRの光依存的な活性制御はLOV型光センサーを介して行われることが推測されるので、蛋白質ー蛋白質間相互作用やLitRのDNA結合活性を指標に解析していく。3.光によって誘発される新規な微生物機能の探索 日本に自生するミヤコグサをはじめとするマメ科植物を対象に、その葉面に共生する細菌の光応答性を解析する。一方、ゲノム情報に基づく光受容体の探索では、これまでに推測された光受容体の機能解析を進め、光センサーであるかを証明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
試薬類、蛋白精製用カラム、キット類、ラジオアイソトープ、オリゴヌクレオチド、DNAマイクロアレイ用チップ、受託シーケンスなどの消耗品・受託解析に使用予定である。
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