LitRはアデノシルB12(AdoB12)を光アンテナ分子として利用するMerRファミリーの転写調節蛋白質であり、その類似遺伝子は細菌種(主に非光合成細菌)を超えて広範に分布している。我々はこれまでに系統分類学的に異なる細菌種由来のLitRホモログ群を対象としてその機能と役割の解明を進め、主に抗酸化活性をもつカロテノイド生産の光スイッチとして機能することを明らかにしてきた。本年度は主にBacillus megateriumのLitRホモログ(LitRbmq)の機能と役割の解明を進めた。野生株は光に応答して顕著なカロテノイド生産を示した一方、litRbmq破壊株は光の有無に関わらず構成的にカロテノイドを生産した。大腸菌で調製したLitRbmq組み換えタンパク質はAdoB12と複合体を形成し、暗条件下でカロテノイド合成遺伝子のプロモーター領域に結合したが、光が照射されたLitRbmqはその結合能を有していなかった。高度好熱菌ThermusのLitR-AdoB12複合体は光に応答してその分子量が大きく変化することをこれまでに明らかにした。一方、バチルス属細菌のLitRも同様に光依存的なDNA結合能を示したが、明・暗両条件下において常にホモ二量体を形成した。本結果はLitRの光依存的な転写調節機構には2つのタイプが存在することを示唆している。また、PseudomonasのLitR様蛋白質を介した光誘導性転写制御はLOV型光受容体(植物のフォトトロピンホモログ)の関与が予想され、新しい光センシング機構の存在が強く示唆された。興味深いことにLitRとLOVホモログ遺伝子はPseudomonas属細菌のゲノム上に複数コードされており、この高度なバックアップ機構の存在は本菌における光応答機構の重要性を意味している。
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