研究課題/領域番号 |
23780094
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研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
皆川 周 京都薬科大学, 薬学部, 助教 (50445962)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 緑膿菌 / 黄色ブドウ球菌 / MexAB-OprM / MexMN / 細菌間相互作用 / 自己溶菌 / 細菌認識 / HQNO |
研究概要 |
本研究課題では、日和見感染菌による難治性細菌感染症で見られる菌交代現象が引き起こされる際の異種細菌間相互作用を明らかにするために、緑膿菌がどのようにして黄色ブドウ球菌の増殖抑制を行っているのかを明らかにすることを目的とし、2011年度は以下の項目について研究を行った。1.黄色ブドウ球菌の増殖抑制や溶菌を引き起こす緑膿菌遺伝子群の探索:(1)緑膿菌のTn5ミニトランスポゾン挿入変異株約1万株を用いて、黄色ブドウ球菌に対する増殖抑制能が低下する変異株を探索した結果、43遺伝子が同定された。 (2)同定された遺伝子群の内、これまでにquorum sensing(QS)を制御することが明らかとなっているlasR、rhlRなどや、機能未知な遺伝子群が含まれていることが示唆された。一方で、緑膿菌のQSがRND型排出ポンプMexAB-OprMを介してacyl-HSLsを選択的に排出することで、制御されていることを示めした。さらに、RND型排出ポンプMexMNが新たな機能として黄色ブドウ球菌の増殖抑制に関与していることが示唆されたので、詳細な解析を行う予定である。2.黄色ブドウ球菌を認識する緑膿菌遺伝子群の探索:swarming寒天培地上で、緑膿菌は黄色ブドウ球菌の周辺で忌避することが示されたことから、この忌避反応が黄色ブドウ球菌に対する認識に繋がる可能性が出てきた。3.緑膿菌由来PQS・HQNOによる黄色ブドウ球菌自己溶菌の誘導:PQS・HQNOを黄色ブドウ球菌の培養液に添加し、黄色ブドウ球菌の自己溶菌酵素をzymographyにより解析したところ、HQNOの添加で未知な自己溶菌酵素が誘導されていることが明らかとなった。誘導された自己溶菌酵素が黄色ブドウ球菌の主要な自己溶菌酵素であるAtlである可能性が示され、HQNOがAtlのプロセッシングや発現に影響を与えていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画していた研究項目において、以下のような結果を得ることが出来た。 1.緑膿菌変異株バンクを用いたスクリーニングでは、詳細に解析を進めて行く候補遺伝子群が同定出来た。2.緑膿菌変異株バンクを用いたスクリーニングの結果、quorum sensingが緑膿菌による黄色ブドウ球菌の増殖抑制に重要であることが示された。3.緑膿菌のquorum sinsingがRND型排出ポンプMexAB-OprMを介したacyl-HSLsの選択的排出により制御されていることが明らかとなった。4.緑膿菌のRND型排出ポンプMexMNがPQS、HQNOを排出することで黄色ブドウ球菌の増殖抑制に関わっていることが示唆された。5.緑膿菌変異株バンクを用いたスクリーニングの結果から、これまでに報告のない緑膿菌遺伝子が黄色ブドウ球菌の増殖抑制に関わっていることが新たに示唆された。6.緑膿菌が黄色ブドウ球菌を忌避していることが示された。7.緑膿菌のHQNOが黄色ブドウ球菌の自己溶菌酵素を誘導していることが明らかとなった。 このように計画していた研究項目において、大きな滞りなく進めることが出来ている。さらには、緑膿菌のMexAB-OprMを介したacyl-HSLsの選択的排出によるquorum sinsingの制御については、論文を作成し投稿中である。現在までに得られた結果は、今後の研究の進展に必要な結果が得られ、今後の研究も問題なく進呈させていくことが出来ると考えている。 これらの理由からおおむね順調に進展していると判断しました。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の結果を基に、下記に挙げる項目について研究を行う。1.黄色ブドウ球菌の増殖抑制に関与する緑膿菌遺伝子群の詳細な解析:特に黄色ブドウ球菌に直接的に作用する可能性のあるタンパク質をコードしているものに注目し、その黄色ブドウ球菌の増殖抑制への関与を調べる。その他の遺伝子群については、緑膿菌のquorum sinsingに制御されない新規な黄色ブドウ球菌の増殖抑制機構の存在を探索する。2.緑膿菌の黄色ブドウ球菌を忌避するのに関与する遺伝子群の探索・同定:緑膿菌変異株バンクを用いて黄色ブドウ球菌を忌避しない変異株を探索し、それに関わる遺伝子群の同定を行う。その後、同定された遺伝子群が黄色ブドウ球菌の増殖抑制に関与するか解析する。3.黄色ブドウ球菌が産生する緑膿菌を忌避させる分子の同定:黄色ブドウ球菌の培養上清から低分子化合物を有機溶媒を用いて抽出・分画し同定を目指す。同定された化合物に対して、緑膿菌のswarmingを指標に、忌避作用を検討する。黄色ブドウ球菌の培養上清に含まれるタンパク質についても同様に解析し、検討する。4.緑膿菌のHQNOにより誘導される黄色ブドウ球菌の自己溶菌酵素の解析:HQNOにより誘導される黄色ブドウ球菌の自己溶菌酵素が黄色ブドウ球菌の自己溶菌酵素で主要なAtlかAtlに特異的な抗体を用いて検証する。研究の推進に当たり、所属分野の後藤直正教授のご指導を賜りながら、黄色ブドウ球菌の研究をされている広島大学医歯薬学総合研究科微生物学教室の菅井基行教授にもご指導を賜る予定である。さらに、黄色ブドウ球菌の培養上清に含まれる低分子化合物の解析に関しては、近畿大学農学部北山隆准教授と共同で解析を行うことで、問題なく進められる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究を遂行していくにあたり、実験に掛かる経費が中心となるため、物品費(試薬代、消耗品代)が必要経費の中心として計画しています。また、研究成果を発表するとともに、関連する研究についての情報収集を行うため、国内外の学会へ参加するための旅費を使用計画に含んでいます。さらに、成果を論文としてまとめ投稿するために、論文校正などの経費の使用を計画しています。
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