研究課題/領域番号 |
23780094
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研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
皆川 周 京都薬科大学, 薬学部, 助教 (50445962)
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キーワード | 細菌間相互作用 / RND型排出ポンプ / quorum sensing / 細菌認識 / 自己溶菌 / 緑膿菌 / 黄色ブドウ球菌 / 生存戦略 |
研究概要 |
本研究課題では、日和見感染菌による難治性細菌感染症で見られる菌交代現象が引き起こされる際の異種細菌間相互作用を明らかにするために、緑膿菌がどのようにして黄色ブドウ球菌の増殖抑制を行っているのかを明らかにすることを目的とし、2012年度は以下の項目について研究を行った。 (1)RND型排出ポンプMexMNを介したPQS、HQNOの排出による黄色ブドウ球菌増殖抑制機構の解析: 緑膿菌のTn5ミニトランスポゾン挿入変異株約1万株を用いたスクリーニングの結果から、RND型排出ポンプMexMNがPseudomonas quinolone signal (PQS)やHQNOを排出することで黄色ブドウ球菌に対する増殖抑制に関わっていると仮説を立て、その検証を行った。その結果、緑膿菌はMexMNを介したPQS、HQNOの排出が黄色ブドウ球菌の増殖抑制に関わっていることが明らかになった。 (2)黄色ブドウ球菌を認識する緑膿菌遺伝子群の探索: swarming寒天培地上で、緑膿菌は黄色ブドウ球菌の周辺で観察される忌避作用が黄色ブドウ球菌産生物質に対する走化性による忌避運動なのか黄色ブドウ球菌産生物質により増殖抑制を受けた結果、忌避しているように見えたのかを検討した。その結果、新たに黄色ブドウ球菌培養上清中には緑膿菌の増殖抑制物質が含まれていることが示された。さらに、黄色ブドウ球菌の培養上清からクロロホルム抽出を行った分画は緑膿菌に対して増殖抑制を示さない濃度で忌避作用を示すことが明らかとなった。 (3)緑膿菌由来PQS・HQNOによる黄色ブドウ球菌自己溶菌の誘導: HQNOの添加で未知な自己溶菌酵素が誘導されていることが明らかとなり、HQNOにより自己溶菌酵素Atlのプロセシングが影響を受け、自己溶菌を誘導していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画していた研究項目において、以下のような結果を得ることが出来た。 ①緑膿菌変異株バンクを用いたスクリーニングの結果を基に、緑膿菌のquorum sinsingがRND型排出ポンプMexAB-OprMを介したacyl-HSLsの選択的排出により制御されていることを明らかとし、論文として発表した。(S. Minagawa et al BMC Microbiol. 2012.)②緑膿菌のRND型排出ポンプMexMNがPQS、HQNOを排出することで黄色ブドウ球菌の増殖抑制に関わっていることが示された。③緑膿菌変異株バンクを用いたスクリーニングにより同定された遺伝子群の中から新たに、緑膿菌-黄色ブドウ球菌共培養条件下でmexRの発現が増加することが示され、MexRを介したMexAB-OprMの制御が黄色ブドウ球菌の増殖抑制に関わっていることが新たに示唆された。④黄色ブドウ球菌が緑膿菌増殖抑制因子を産生していることが新たに明らかになった。⑤緑膿菌のHQNOが黄色ブドウ球菌の自己溶菌酵素Atlを誘導し、Atlに対するプロッセシングに影響を与えることが示唆された。 このように計画していた研究項目において、大きな滞りなく新たな発見を得ながら進めることが出来ている。また、緑膿菌のMexAB-OprMを介したacyl-HSLsの選択的排出によるquorum sinsingの制御については、論文をできた。さらに、緑膿菌のMexMNを介したPQS、HQNOの排出による黄色ブドウ球菌増殖抑制機構に関して、論文投稿に向けて準備を進めている。現在までに得られた結果は、今後の研究の進展に必要な結果が得られ、今後の研究も問題なく進呈させていくことが出来ると考えている。 これらの理由からおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の結果を基に、下記に挙げる項目について研究を行う。 ①黄色ブドウ球菌の増殖抑制に関与する緑膿菌遺伝子群の詳細な解析:緑膿菌mexRが緑膿菌-黄色ブドウ球菌共培養条件で発現増加したことから、MexRを介したmexAB-oprM遺伝子発現制御が黄色ブドウ球菌の増殖抑制機構に働いていることを明らかにしていく。②黄色ブドウ球菌産生物質に対する緑膿菌の応答:緑膿菌変異株バンクを用いて黄色ブドウ球菌を忌避しない変異株、黄色ブドウ球菌培養上清に対する増殖抑制に対して高感受性、あるいは耐性を示す変異株を探索し、それに関わる遺伝子群の同定を行い、緑膿菌の黄色ブドウ球菌との共培養時における応答を解析することで、緑膿菌の生存戦略の一端を明らかにすることを目指す。③黄色ブドウ球菌が産生する緑膿菌を忌避させる分子の同定:黄色ブドウ球菌の培養上清から低分子化合物を有機溶媒を用いて抽出・分画し同定を目指す。同定された化合物に対して、緑膿菌のswarmingを指標に、忌避作用を検討する。黄色ブドウ球菌の培養上清に含まれるタンパク質についても同様に解析し、検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究を遂行していくにあたり、実験に掛かる経費が中心となるため、物品費が必要経費の中心として計画している。また、研究成果を発表するために学会参加するための旅費、成果を論文としてまとめるための経費の使用を計画している。
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