研究課題/領域番号 |
23780097
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
安部 博子 独立行政法人産業技術総合研究所, 健康工学研究部門, 主任研究員 (40363220)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 出芽酵母 / 糖鎖機能 / 不均衡変異導入法 |
研究概要 |
本研究は糖鎖異常を補填することによって増殖能を回復した酵母株のその補填機能の解明から、糖鎖が持つ増殖制御機構を明らかにすることを目的とする。 酵母の高マンノース型N-糖鎖の外糖鎖を除去し、マンノース5個までにトリミングしたN-結合型糖鎖を持つYFY20株に、O-マンノース型糖鎖付加の抑制も同時に行う目的で、PMT1遺伝子(protein-O- mannnosyltransferase)の破壊を加えたYFY21株を取得した。しかしながら、YFY21株は増殖能の低下およびts性を引き起こす。そこで、新規育種技術である不均衡変異導入法を適用し、増殖能等を回復させたYFY22株を取得することに成功している。このYFY22株がどのようなメカニズムによってこれらの表現型を回復することができるのかを調べることを目的に、今年度はYFY21株とその増殖回復株であるYFY22株との間で網羅的遺伝子発現解析を行い、YFY22株にて発現量が増加する遺伝子、および発現能が低下する遺伝子を明らかにすることができた。現在、これらの遺伝子はマンノース転移活性が抑制されている中、増殖およびts性を回復するための必須遺伝子であるかどうかの解析を行っている。 また、O-結合型糖鎖の機能を調べる目的で著しい増殖能の低下を示す、PMT2およびPMT4の2重遺伝子破壊株を構築し、不均衡変異導入法の適用によってその増殖回復株の取得を行った。この取得した2重遺伝子破壊株の増殖能の低下は、細胞壁センサータンパク質Wsc1、Mid2の細胞表層への局在能が失われていることが原因であることから、本研究にて取得した増殖回復株にてこれらタンパク質の局在能の変化について解析を行っている。以上の研究を通じて、N-結合型糖鎖、O-結合型糖鎖の増殖制御機能について明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した平成23年度に実施する研究計画(1)では、YFY21株とその増殖回復株であるYFY22株からRNAを抽出しDNAマイクロアレイ解析を行い、YFY22株にて発現が誘導される遺伝子および低下する遺伝子を見出すことができた。加えて O-結合型糖鎖付加の機能を解析するためにpmt2pmt42重遺伝子破壊株を新たに構築するとともに、不均衡変異導入法の適用により増殖回復株の取得にも成功している。 研究計画(2)ではYFY21株、およびYFY22株の細胞壁構成成分の比較を行うために、両株から細胞壁を回収し、それらを酸分解することにより単糖を単離した。これらを蛍光標識しHPLC解析によりその構成単糖の分類および存在量の解析を行った。 このように研究計画はほぼ計画通りに進捗し、加えて研究計画(1)に記載したように、O-結合型糖鎖機能を解析するためのツール開発も行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度研究計画(1)において取得したYFY22株にて発現誘導された遺伝子群は、強制発現用ベクターにクローニングし、YFY21株で強制発現させる。一方、発現抑制された遺伝子はYFY21株にて遺伝子破壊を行う。これら遺伝子操作株の中から増殖能力の回復、ts 性および薬剤感受性が弱まる株を探索する。このようにYFY21株にて何らかの機能を示した遺伝子については、既知の遺伝情報を利用して、探索遺伝子のどのような機能がYFY21 株の増殖回復に繋がったかを明らかにする。 また、糖鎖機能と極性維持機能の解明を行うために、分裂酵母の糖鎖欠損株におけるアクチンの局在変化について解析を行う。分裂酵母のoch1破壊株では極性の喪失が考えられる。また、本株の増殖回復株では球形に対し少し伸長しており極性が回復していることが示唆される。これら株のアクチンを含む細胞骨格などの解析から、糖鎖と極性維持および細胞形態の関係を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度は予定していた海外の学会参加を特許出願のため取りやめたこと、また特許出願費用を申請者所属機関が負担したため。しかしながら、平成24年度は23年度に探索した多くの遺伝子群の機能を解析することから、実験補助者が必要となる。そこで昨年度未使用の研究費を実験補助者の人件費として使用する予定である
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