これまでに糖鎖改変出芽酵母に複製エラーを利用した育種技術である不均衡変異導入法を適用することによって、糖鎖改変によって低下した増殖能を回復させた株を得ることに成功している。本研究では本株の詳細な解析から、糖鎖が持つ増殖制御機構を明らかにすることを目的とする。今年度は著しい増殖能の低下を示す、PMT2遺伝子(protein-O- mannnosyltransferase)およびPMT4遺伝子の2重遺伝子破壊株およびその増殖回復株のキチナーゼとマンノタンパク質のO-結合型糖鎖量を調べた。その結果、pmt2Δpmt4Δ二重破壊株では野性型株に比べてキチナーゼのO-結合型糖鎖量が減少していることが分かった。一方、増殖回復株のキチナーゼに付加されるO-結合型糖鎖は、野性型株由来のものよりも減少しているが、pmt2Δpmt4Δ二重破壊株よりも少し増加していることが分かった。一方、マンノタンパク質のO-結合型糖鎖は、pmt2Δpmt4Δ二重破壊株では野性型株に比べ約40%程度にまで減少していたが、増殖回復株ではむしろ、野性型株よりも増加していた。このことから、増殖回復にはO-結合型糖鎖を増やすシステム、すなわち、他のPMTタンパク質が過剰に機能していることが予想された。これまでの遺伝子発現解析等の結果から、N-結合型糖鎖およびO-結合型糖鎖改変酵母(YFY21)の増殖回復株(YFY22)では解糖系で機能する遺伝子が過剰発現していることが明らかになった。このことから、糖鎖改変による増殖能の低下を回復するためには、糖代謝を上げてより効率的にエネルギーの生産を行う必要があると考えられる。糖鎖はエネルギー代謝に何らかの機能を示すことが示唆された。
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