研究課題/領域番号 |
23780099
|
研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
栗田 大輔 弘前大学, 農学生命科学部, 助教 (60552651)
|
キーワード | リボソーム / tmRNA / SmpB / EF-Tu / 翻訳 / トランス・トランスレーション |
研究概要 |
本研究では、トランス・トランスレーション中間体の解析による反応機構の分子メカニズム解明を目的としている。今年度の成果として、tmRNA結合タンパク質であるSmpBを用いて、リボソーム結合活性の測定系を確立した。これはSmpBのシステイン残基を蛍光標識することでリボソームとの複合体を検出し、結合特性を調べるものである。この系を用いて、様々な停滞したリボソームを試験管内で再現し、リボソーム結合活性をはじめ、ペプチド転移反応活性、GTP加水分解活性の測定を行った。 また分子内にシステイン残基を1つだけもつようなSmpBの変異体を作製し、変異がトランス・トランスレーションの各過程に与える影響について調べた。その結果、SmpBのC末端の点変異によってペプチド転移反応の活性を大きく低下することを発見した。またSmpBのC末端のみをペプチド合成し、蛍光によるリボソーム結合活性を測定したところ、点変異がリボソーム結合に決定的に重要であることを見出した。またこの合成ペプチドを用いて、試験管内トランス・トランスレーションの活性測定を行ったところ、変異をもたないペプチドでは、ペプチド転移反応の活性を阻害したのに対して、変異をもつペプチドは阻害しなかった。興味深いことに、どちらのペプチドもGTP加水分解活性には影響を与えなかった。 これらの結果から、トランス・トランスレーションの初期段階の分子メカニズムが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請では、2つのトランス・トランスレーション中間体の解析を目的としていたが、現在までにそのうち1つの目的をほぼ達成することができた。これまでのペプチド転移反応活性測定に加え、GTP加水分解活性、リボソーム結合活性系を確立し、これらの結果から、tmRNAがどのようにして翻訳停滞リボソームを見分けているか、という問題に大きなヒントを得た。現在、これまでの結果で論文投稿準備中である。 またSmpBの変異がトランス・トランスレーションの各ステップにどのような影響を与えるか明らかにした。今年度は、GTP加水分解の速度論解析を行い、速度定数を比較することで変異の影響を明らかにした。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、トランス・トランスレーションの中間体の解析を行う。主に、tmRNAの翻訳再開位置決定に焦点をあてる。tmRNAがリボソームのAサイトに結合し、Pサイトからできかけのペプチドを受け取る。その後、tmRNAはAサイトからPサイトへトランスロケーションする。このときにtmRNAは正確に翻訳再開位置をAサイトにセットしなくてはならない。通常の翻訳では、翻訳伸長因子であるEF-Gがこの反応を触媒するが、トランス・トランスレーションではEF-Gが関与するのかわかっていない。そこで試験管内でトランスロケーション前の状態を作り出し、この状態のリボソームに対して、EF-Gの有無によるトランスロケーション活性を測定する。 また、これまでの研究により、翻訳再開に影響を与える抗生物質やSmpBの変異体が得られているので、それらの反応速度論解析を通じて、トランス・トランスレーションにおけるmRNAからtmRNAへの翻訳の切り替えの分子メカニズムを明らかにしていく。
|
次年度の研究費の使用計画 |
試験管内トランス・トランスレーションに必要な試薬・プラスチック類の購入にあてる。タンパク精製には、各種クロマトグラフィー用樹脂、電気泳動用の試薬、タンパク質発現に必要な培地、試薬を購入する。またペプチド転移反応活性とGTP加水分解活性の測定には、放射性同位体標識したアミノ酸やGTPが必要である。リボソーム結合活性の測定に必要な蛍光試薬、消耗品、機器使用料を予定している。また研究成果の発表のため、Ribosome meetingの学会発表を予定している。
|