研究課題
細胞表面で膜孔を形成して細胞を破壊する孔形成タンパク質が、疾病の原因となるなど注目されている。本研究では、孔形成タンパク質の多量体化機構の解明を目的とした。試料としては、海産無脊椎動物グミ由来レクチンCEL-III、黄色ブドウ球菌由来ロイコシジン、及びCEL-IIIに高い相同性を示すサンゴ由来タンパク質(AML)を用いた。CEL-IIIは、前年度までに多量体化における構造変化の測定をX線小角散乱法(SAXS)によって行った。本年度はSAXS測定によって得られた散乱曲線から、孔形成多量体のモデル構造の構築を行ったところ、最小の膜孔形成単位である七量体がさらに三分子会合したモデル構造を構築することに成功した。このことから、界面活性剤非存在下ではCEL-IIIは21量体を形成し、最小単位の膜孔形成多量体が会合していると考えられた。ロイコシジンは、前年度までにin vitroでの多量体化条件として、有機溶媒であるMPD存在下での多量体化を確認している。そこで、よりin vivoの環境に近い構造解析のためウサギ赤血球を溶血させ、その膜画分からの膜孔形成多量体の回収を試みた。赤血球にロイコシジンを加えたところ溶血活性を確認し、界面活性剤を用いた可溶化を行ったが、ウサギ血由来の他のタンパク質を除くことが困難で単一に精製するまでには至っていない。今後、精製法を確立する予定である。AMLは、高いアミノ酸配列相同性を示す2つの遺伝子が発見されている。そこで、両方のリコンビナントタンパク質としての生産を試みた。当初、タンパク質全長の生産を試みたが、多量体を強く形成することから、それらタンパク質のうち、多量体化に寄与すると考えられる部分を切除し、糖認識ドメインのみの生産を行った。その結果、両タンパク質の部分的な発現・精製に成功し、糖特異性を明らかとした。
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